精神科医を目指す医大生の備忘録

精神科に興味あるけど、どうやって勉強したらいいかわからない。という悩みを解決するために医師国家試験を解説しつつ、勉強していくことにしました!一般の方でも解けちゃったりするので、ぜひともお付き合いくださいませ!

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精神科に特別な入院形式があるのはなぜ? 医師国家試験 114F41

病識がない患者さんには、強制的に入院させる制度が必要

医師国家試験(2020年度) 114F41 精神科/公衆衛生

25歳の男性。幻聴を主訴に兄に連れられて来院した。昨日から「そばに人がいないのに、考えていることを批判し動作を命令する声が聞こえてくる。つらくて仕方がない」と苦痛を伴った幻聴を訴えるようになったため、精神科病院を受診した。この病院で3年前に統合失調症と診断され、通院中であった。患者はこの声が聞こえなくなるよう入院の上で治療して欲しいと訴えている。

適切な入院形式はどれか。

a 応急入院
b 自由入院
c 任意入院
医療保護入院
e 緊急措置入院

 

今回は、精神科と入院に関する問題ですね。純粋な医学というよりは、公衆衛生という社会制度と関係する内容なので、医学的な面白さは欠けるかもしれませんが、精神科診療においては重要なテーマですね。

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今回の患者さんは、「統合失調症」と問題文にすでに記載されているので、診断をつける必要はありませんね。問われているのは、「患者はこの声が聞こえなくなるよう入院の上で治療して欲しいと訴えている。」と自ら入院を訴える患者に対して適切な入院方法はどれか?という点です。

 

完全知識問題なので、詳細はこの後の内容を読んでいただければと思いますが、正解は選択肢cの任意入院になります。任意入院の特徴は、任意という言葉からわかるように「患者本人の同意を得て行われる入院」となります。

 

精神科領域では「任意入院」以外に、「医療保護入院」、「応急入院」、「措置入院」、「緊急措置入院」の合計5つの入院形式があります。医師国家試験(やおそらくその他の精神保健が関わる国家試験でも?)では、問題文を読んでこの5つのうち患者さんにとって適切な入院形式はどれか?というのが頻出ですね。

 

ところで、そもそも精神科ではなぜこのような特別な入院形態があるのでしょうか?

精神科では、自分で病気だと認識していない患者さんがいる

精神科での入院形態を考える前に、一般内科などでの入院について考えてみましょう。

 

Aさんは、肺癌を患っているため医学的には入院治療が必要です。状態としては手術しなければ死ぬ可能性があります。

 

このような患者さんに対して「このまま癌を放置していたら、命が危険だから絶対に入院して手術を受けてください。」と強制することはできるでしょうか?

 

答えはNoですね。患者さんが「私は、自然に任せて寿命を全うしたいので、手術はせずにこのまま過ごします。」と主張すれば、医療者側は患者さんの意見を尊重する必要がありますよね。(もちろん、丁寧に患者さんに手術を受けなかった場合に起こり得るリスクについて説明し、きちんと納得してもらう必要があります。)

 

つまり、現在の医療では、患者さんが「治療を受ける権利」を有すると同時に「治療を受けない権利」も有しているわけです。

 

ただ、その背景には「その患者さんの精神状態は正常で判断能力が損なわれてない」という前提があります。

 

一方で、精神疾患を抱える患者さんの中には、自分が治療をすべき病気を患っていることを理解していないケースがあります。これを医学的には「病識がない」と言います。

 

このようなケースでは、患者さんが自分自身の状態を適切に判断できていないと考え、医療者側が必要と判断したら、強制的に入院させることができる制度が整備されています。

 

もちろん、「精神疾患を抱える患者には人権がないのか!?」といった議論はなされており、できるだけ患者さん自身が不利益を被らないように配慮されているため、5つも入院形態が存在するやや複雑な制度となっています。

 

また医療者ならだれでも強制入院できるか?と言われるとそうではなく、精神科医の中でもさらに特定の要件を満たした「精神保健指定医」がこの強制力のある入院の可否を判断することとなっています。

 

精神保健指定医とは?

精神保健指定医とは、精神科への入院の判断を行う専門医です。今回の問題で正解となった「任意入院」に関しては精神保健指定医は必要ないのですが、それ以外の4つの「医療保護入院」、「応急入院」、「措置入院」、「緊急措置入院」を実施する精神科病院は常勤の精神保健指定医が勤務している必要があります。

 

ちなみに、都道府県ごとの精神保健指定医数も厚生労働省から発表されていますね。

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精神保健指定医の地域別分布(H25) 厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000149862.pdf

 

2016年4月時点で、全国に15000人弱いるようですね。なお、西日本(グラフの右側)の方が人口に対して精神保健指定医が多いのは、別に精神科医に限ったことではなくて、西日本の方が医学部が多いから医者の数も多いからだと思われます。(そのため、東日本より西日本の方が医者の給料が安いという話も聞いたことがありますが、真意の程は不明ですw)

 

ちなみに、厚生労働省の資料を読んだ限り、過去にこの精神保健指定医の資格を巡って不正取得があったようですね。それぞれ事情があるのでしょうが、患者さんの立場からすると「入院を強制できる」という強い権限がある以上は適切な方法でしっかりと研鑽を積んだ医師に精神保健指定医を取得してほしいですよね。

 

どの入院形態になるかは、自傷他害がポイント

さて、では5つのうちどの形式で入院するかは、どのように判断されるのでしょうか?

 

詳しい判断基準は専門書にゆずるとして、簡単にいうと以下のアルゴリズムに従って入院形式が決定されます。

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精神科入院の決定アルゴリズム(簡易版)

まず初めに自分を傷つけたり(自殺未遂など)、他人に危害を加える可能性があるかが分かれ目になりますね。当たり前の話ですが自傷他害の可能性があると緊急事態ですものね。

 

そして、自傷他害の可能性がある場合でも、さらにその場にいる指定医の人数に応じて「緊急措置入院」と「措置入院」の2種類に分かれます。これは、小さめの精神科病院では一人しか指定医が常駐していない可能性があるからこのような制度になっているんでしょうね。

 

ただ、一人しか指定医がいない場合は、緊急とあるようにあくまでも緊急事態を想定しているため、入院させられるのが「最大72時間まで」という制約があります。強制的に入院させるという強い権限がある以上、やはり専門家であっても2名以上で判断するのが望ましいという背景があるのでしょうね。

 

また「自傷他害」の可能性がない場合は、下半分のアルゴリズムに移行します。ここでポイントになってくるのは同意の有無ですね。

 

一番理想的なのは、患者本人が納得した入院形式である「任意入院」ですね。今回の医師国家試験問題でも本人が治療を希望しているので任意入院が正解でしたね。

 

一方で本人は入院を拒否しているが、家族(やそれに相当する人物)が同意し指定医が一人以上いる場合は、「医療保護入院」という形式がとられます。

 

最後に自傷他害の可能性はないけど、本人や家族の同意が得られない場合は消去法的に「応急入院」となります。ただこの応急入院も、応急とあるように同意がないにも関わらず入院させるわけなので、入院させられるのが「最大72時間まで」という制約があります。また誰の同意も得ていないので、入院後ただちに都道府県の知事に報告する義務があります。

 

長くなってしまいましたが、最後に実際問題でどの入院形態が多いのでしょうか?

 

99%が任意入院と医療保護入院

自分で調べて驚いたのですが、なんと99%が任意入院と医療保護入院で占められるんですね!

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どの入院形態が多いかの統計データ

https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000462293.pdf

 

全体的な傾向として、平成11年から平成26年にかけて年々精神科入院は減っているようです。

 

また措置入院は、1974年頃は全体の23%近くを占めていたようですが、そこから年々減少して近年ではわずか0.5%足らずまで減少しています。自傷他害のおそれがある患者数減ったという要因もあるでしょうが、精神科患者自体が1970年に比較して激増しているので、その影響もありそうですね。

 

任意入院と医療保護入院ですが、割合としては任意入院の方が多いですが、近年は医療保護入院が増えているようですね。

 

なお「措置入院」や「医療保護入院」などで、自分の意思に反して入院させらた場合に「自分の意思では退院できなくなるのか?」と言われたら決してそういうわけではありません。

 

自分で入院が不当だと感じたり、必要以上に行動が制限されていると感じた場合には都道府県の知事や政令指定都市の市長に対して「退院請求や処遇改善請求」を行うことができるようです。このへんは、また別の機会に解説できたらと思います。

 

 

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