アルコール依存症の治療に睡眠薬が有効!? 医師国家試験114D7
アルコール依存症の治療について
医師国家試験114D7(2020年度) 精神科
アルコール依存症の治療について適切なのはどれか。
a 入院治療が第一選択である。
b 断酒会は匿名参加が原則である。
c 離脱症状にベンゾジアゼピン系薬を投与する。
d 脳症の予防としてビタミンDは有効である。
e 患者に知らせずに抗酒薬を食事に混ぜて投与する。
アルコール依存症は、アメリカのDSM-5という診断基準ではアルコール乱用とセットで「アルコール使用障害」と呼ばれます。
定義としては、アルコールに対して精神依存、身体依存、耐性が形成され、飲酒行動の自己制御が不可能になり(乱用)、仕事や人間関係を犠牲にしてまでも、常に相当量の飲酒をせざるを得ない状態。とされます。
「仕事や人間関係を犠牲にしてまでも」という部分にやや恐怖を感じますよね。
統計データによると、アルコール依存になる人は人口の1%と言われているので、統合失調症と同じくらいの発症確率ですね。これは個人的には想像してたよりも少ないですね。
生涯でアルコール依存症に罹患する人は約1%(107万人)
2013年に行われたわが国の成人の飲酒行動に関する全国調査によると、ICD-10によるアルコール依存症の生涯経験者数は、男性の1.9%(94万人)、女性の0.2%(13万人)であり、推計数は男女合わせて107万人でした3)。また、現在ICD-10のアルコール依存症の診断基準を満たす人は、男性の1.0%、女性の0.1%で、計57万人と見積もられています。
ちなみに、日本全体でのアルコール摂取量は減少しているのですが、アルコール摂取の男女差が無くなってきているらしく、今後は女性のアルコール依存が増えるのではないか?と懸念されているそうです。
体の大きさから、同じアルコール量では、女性の方が体への影響が大きいとされます。
また最近では、アルコール濃度が高め(9%etc)の「ストロング系」チューハイがはやっているのも、懸念事項なようです。個人的には強いお酒は苦手なのですが、色々ストレスのたまる社会なので、強いお酒にニーズがあるのかもしれないですねー。
そもそもアルコールを飲んでリラックスできるはなぜ?
さて、今回の問題に話を戻すとアルコール依存の治療で正しいのはどれかを選べという問題なのですが、結論的に正解は選択肢c「離脱症状にベンゾジアゼピン系薬を投与する。」が正解になります。
ここでポイントになってくるのはGABAという物質です。
写真のようにGABAチョコレートがリラックスに関与するとして一時期もてはやされましたが、脳の中にはGABAを感知するスイッチがあって、GABAがこのスイッチに引っ付くとリラックスするように脳に働きかけます。
アルコールもこのGABAスイッチにひっついて、脳をリラックスさせる効果があるんですよね。
アルコール依存の人は、このGABAスイッチが常にオンになっている状態なのですが、治療で断酒をしてしまうと、急にスイッチがオフになるので、様々な体に悪い症状が出てきます。
これをアルコール離脱と言います。具体的には、不眠、不安、イライラ感、興奮、手が震えるなどです。他にも「虫が天井をはっている」といった小動物幻視も見られたりします。
アルコール離脱を防ぐには?
アルコール離脱の原因は、GABAスイッチが急にオフになることでしたよね。なので、予防するには、GABAスイッチが急にオフにならないようにすることです。
そこで登場するのがベンゾジアゼピン系と呼ばれる睡眠薬です。このベンゾジアゼピンという薬もアルコールと同様にGABAスイッチに働きかける作用があります。
なので、一次的に服用することで、断酒によってGABAスイッチが急にオフになる事態を回避できるわけです。
ちなみにこのベンゾジアゼピンという薬は、商品名としては以下のものがありますね。どこかで聞いたことあるのではないでしょうか?
超短時間型:トリアゾラム(主な商品名:ハルシオン)
短時間型:ブロチゾラム(主な商品名:レンドルミン)、ロルメタゼパム(商品名:エバミール、ロラメット)、リルマザホン(主な商品名:リスミー)
中間型:フルニトラゼパム(主な商品名:サイレース)、エスタゾラム(主な商品名:ユーロジン)、ニトラゼパム(主な商品名:ベンザリン、ネルボン)
長時間型:クアゼパム(主な商品名:ドラール)、ハロキサゾラム(商品名:ソメリン)、フルラゼパム(商品名:ダルメート)
ちなみにベンゾジアゼピン系の薬は、睡眠薬だけでなく、抗不安薬・麻酔薬・抗けいれん薬とマルチプレイヤーなとても便利な薬です。
ただ、マルチプレイヤーであるということは、人体の色んな部分に作用するということです。そのため、副作用が多い薬でもあります。
特に依存性があるのが要注意ですね。アルコール依存を辞めるために、ベンゾジアゼピン系睡眠薬を飲んでいたら、今度は睡眠薬に依存してしまったなんてことになったら本末転倒です。
ですので、睡眠薬の投与は厳密に行う必要があります。
それにしても、睡眠薬がアルコール離脱に効くというのはなかなかおもしろいですよね。初めて知った時は面白いなーと思いました。
さて、最後に残りの選択肢もチェックしていきます。
a 入院治療が第一選択である。
→いきなりなんでもかんでも入院ということはありませんね。多くは外来で治療がスタートします。
b 断酒会は匿名参加が原則である。
→アメリカでは匿名参加が原則のようですが、日本では実名参加のようですね。個人的には匿名の方が参加しやすい気もするのですが、文化の違いなのでしょうか。
d 脳症の予防としてビタミンDは有効である。
→ビタミンDでなくて、B1が正解ですね。ビタミンB1が欠乏すると森鴎外で有名な脚気や、あとはWernicke脳症という脳の怖い病気になるリスクがあります。妊婦さんのつわりの症状がひどいとWernicke脳症になる可能性があるので、ビタミンB1を投与することがありますね。
e 患者に知らせずに抗酒薬を食事に混ぜて投与する。
→これは倫理的にだめですよね(笑)
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