双極性障害が近年注目されているのはなぜ? 医師国家試験113D73
マライアキャリーが「双極性障害」を告白した時期に一番関心が高かった!?
医師国家試験(2019年度)精神科113D73
44歳の男性。過活動を心配した妻に連れられて受診した。3か月前から疲れがとれないと訴え、朝は起床が困難で、会社に遅刻するようになった。2週間前から、特にきっかけなく急に元気になった。「体調が最高なので、眠らなくても全く疲労を感じない」と言い、夜中に欧州支社の担当者と国際電話で話し続け、ほとんど眠らずに出勤するようになったため、妻に連れられ受診した。早口・多弁で、よく話すが話題が転々と変わりやすい。妻が家における患者の状態について話すと、些細なことで不機嫌になった。意識は清明であり、身体所見に異常を認めない。
治療薬として適切なのはどれか。2つ選べ。
今回は双極性障害についての問題ですね。
双極性障害については2020年度(第114回医師国家試験)でも出題されているので2年連続の出題になります!
2020年度の問題は、双極性障害の「症状」についての問題でしたが、今回は双極性障害の治療薬についての問題になります。
正解は、「a バルプロ酸」と「c 炭酸リチウム」になります。
問題の解説はブログの最後の方で書かせてもらっています!
また2020年に出題された双極性障害の症状に関する問題はこちらを参照ください!
双極性障害への関心は近年高まっている!?
直近の医師国家試験で2年連続の出題(2019年に関しては精神科13問中2問出題!)がありましたし、日常生活を過ごしていても双極性障害について耳にする機会が多いので、個人的には双極性障害ブームが来ているのでは!?と思っていました。
が、実際に患者数が増えているかなどを調べたことがなかったので、少し調べてみました。
厚生労働省が実施している患者調査という統計のデータ(2017年10月)によると、気分(感情)障害(躁うつ病を含む)の患者は約128万人となっております。
1996年には約43万人、2008年には約104万人であったことを考えるとうつ病や双極性障害を含んだ概念である気分障害の患者さんは着実に増加していると言えます。
ただ、双極性障害単独の統計データが見当たらなかったので、少し古いデータを引用すると以下のグラフのような推移を辿っています。
参考文献「自殺・うつ病等対策プロジェクトチームとりまとめについて」
グラフを見ても確実にうつ病も双極性障害も患者数が増えているのがわかりますね。
平成20年のグラフを見るかぎり、うつ病70万人に対して、双極性障害は10万人くらいでしょうか?
厚生労働省のサイトによると「日本では、うつ病の頻度は7%くらいで、I型とII型を合わせた双極性障害の人の割合は0.7%くらいといわれています。」とのことなので、単純の人口比で行くと1.2億×0.7%=8万4千人なので、大体適切な人数を反映しているでしょうか?
とはいえ、上記の厚労省のサイトには「海外では、うつ状態で病院に来ている方のうち、20~30%の方が双極性障害であるといわれています。」とあるように、実際にはもっと双極性障害の患者さんがいており、そういった患者さんが近年受診をすることで統計上の患者数は増えてきているのかもしれません。
Googleトレンドでも検索数は漸増している!
直近のデータがなかったので、社会的な関心という意味でGoogleトレンドというツールで過去10年間の「双極性障害の検索数」について調べてみました。
すると、2010年から2020年にかけて、Googleの検索エンジン上では「双極性障害」というキーワードの検索数が徐々に増加していることがわかります。
グラフにオレンジで補助線を引きましたが、2010年と2020年を比較すると2倍以上は検索数が増加していることがわかりますね。
ちなみに、冒頭の大見出しにも書きましたがなぜか2018年4月に「双極性障害」というキーワードが最も検索されているんですよねー。
自分なりに調べてみたのですが、米国の有名歌手のマライアキャリーさんが自身の双極性障害を告白したニュースがこの時期に発表されたみたいです。
「マライアキャリーさんほどの有名人が告白した双極性障害ってなんぞや?」という感じで検索数が増えたのでしょうか?
それとも、双極性障害に関する何か大きなイベント(ドラマや学術的な発表etc)があったのでしょうか?
あくまでも、Googleのキーワード検索数なので、直接世間の関心を反映しているわけではないですが、色々考えてみるとなかなか面白いですね(笑)
双極性障害への関心は、発達障害に比べたらまだまだ!?
個人的には、双極性障害もずいぶんと市民権を得てきたと感じていたのですが、うつ病や統合失調症、また近年注目を浴びる発達障害と比較するとどうなんでしょうか?
ということで、再びGoogleトレンドで比較してみました!
調べてみると意外な結果でした!
緑が双極性障害なんですが、うつ病(青)・発達障害(赤)・統合失調症(黄色)に比べると双極性障害の検索数はだいぶ少ないなーという印象を受けました。
まぁ、うつ病や発達障害に比べたら双極性障害の患者数は少ないので当然の結果とも言えます。
それに「躁状態(特に軽躁状態)を自分で気づくのは難しい」と言われますので、検索数では双極性障害はどうしても少なくなるのかもしれませんね。
2014年以降は発達障害の方が、統合失調症より関心が高い!
Googleトレンドで調べてみて面白かったのが、発達障害(赤)の推移ですね。
2010年頃は、統合失調症よりも検索数が少なかったのに、年々関心が高まり、2014年には統合失調症を追い抜いていますね。
さらに、2018年頃には、”王者”うつ病を抜いて検索数No1となった時期がありますね。
前回の発達障害の記事で近年「発達障害ブーム」にあったと書きましたが、2018年頃は本当に関心が高かったんだなと実感しました。
また、ここ1,2年は関心がややおさまってきた感じですね。
ちなみにですが、2020年の4月、つまり全国での緊急事態宣言の時期には「うつ病」も「発達障害」も検索数がガタ落ちしてるんですよね。
この時期は、自粛が始まったばかりで、仕事に行く機会が減ったのでうつ病や発達障害に関する悩みが減ったのかもしれませんね。尚、それ以降はしっかり増加傾向にあるので、自粛疲れをきっちり反映しているのではないでしょうか。
コロナの影響で減少傾向にあった自殺者数が増えるとも言われているので不安なところですね。
以上は、完全な推測でしかないのですが、データが簡単に手に入る時代なので、気軽に色々調べれて便利な時代ですね!
双極性障害が増えたのはなぜ?
さて、タイトルの話題に戻りますが近年双極性障害の患者数が増加しているのはなぜでしょうか?
日本における双極性障害研究の第一人者である加藤忠史先生の「双極性障害」という本によると、「双極性障害Ⅱ型の登場により、双極性障害の概念が広くなり、診断される患者数が増えたのではないか?」と言及されていました。
本によると双極Ⅰ型障害は「入院が必要になるほど激しく、放っておいたら本人の人生が台無しになってしまうほど大変な躁状態、そしてうつ状態を繰り返すもの」とされます。
一方、双極Ⅱ型障害は、「いつもと違って明らかに『ハイ』になっているけれど、入院を要するほどではない『軽躁状態』と、うつ状態を繰り返すもの」とされます。
つまり、Ⅰ型とⅡ型の違いは、躁状態の程度の違いによってのみ診断されます。
以下、この診断基準の登場で双極性障害の患者数が増えたことに言及する部分を引用させていただきます。
DSM-5の、躁状態の診断基準は、躁状態が7日間続くこと、となっています。
そして軽躁状態の診断基準は、軽躁状態が4日間続くこと、となっています。
入院するほど重症ではないたかぶった気分が、4日間続くだけということになると、かなりいろいろな症状の方が、この診断基準にあてはまることになります。
その結果、躁うつ病という病名で診断されていた頃に比べると、この少々甘い診断基準によって、より幅広い患者さんが、双極Ⅱ型障害の診断を受けるようになってきました。
躁うつ病という病名が使われていた時代には、うつ病と診断されていたような患者さんの一部も、双極Ⅱ型障害に含まれるようになってきました。
加藤先生によると、「診断基準の変更によって疾患概念が広がったことが、双極性障害の患者さんが増えた要因ではないか?」という感じですね。
アメリカでは、人口の4.4%(日本の6倍も!?)が双極スペクトラムであるというデータも報告されているらしく、これに関しては加藤先生もさすがに多すぎると言及されていますね。
診断基準の変更で患者数が増減するということは医療業界ではよくあることですが、双極性障害においては望ましいことだったのでしょうか?
これに関しては、実臨床を経験してない自分には難しい部分なのですが、少なくとも、これまで実は双極性障害だったけど、うつ病と診断されていて「不用意に抗うつ薬が処方されて、躁状態になったり、躁とうつを繰り返す状態になったりして経過が悪くなる」というケースの患者さんにとっては望ましいことだった言えると思います。
一方で、過剰診断された人に関しては、双極性障害の薬は血中濃度を測定する必要があり、非常に管理が大変であったり、腎障害などの副作用もあるので、本来双極性障害でない人が薬を処方されるのは良くないことですよね。
診断基準を変えると良い面・悪い面がでてきますが、精神疾患は診断基準で一概に線引きできるものでもないと思います。
ですので、最終的には精神科医一人一人が診断基準をベースにしつつ、その患者さん個々の状況に応じて診断し、治療方針を決定していくのが重要なのだと思います。
と、えらそうなことを書きましたが、所詮は医学生ですので、将来精神科医になった際に実臨床の難しさに打ちのめされたいと思います(笑)
◆医師国家試験問題の解説はこちら!
さて、つらつらと書きましたが、今回の問題を解説したいと思います!
まずは、問題文の中で「双極性障害」という診断にいたるキーワードを抜き出しますと・・・
そもそも「過活動を心配した妻に連れられて受診した。」と本人でなく、家族に連れられて受診する当たりが双極性障害の特徴をとらえた一文ですね。
その次の「3か月前から疲れがとれないと訴え、朝は起床が困難で、会社に遅刻するようになった。」の部分がうつ状態を表現していますね!
一方で、『2週間前から、特にきっかけなく急に元気になった。「体調が最高なので、眠らなくても全く疲労を感じない」と言い、夜中に欧州支社の担当者と国際電話で話し続け、ほとんど眠らずに出勤するようになったため、妻に連れられ受診した。早口・多弁で、よく話すが話題が転々と変わりやすい。妻が家における患者の状態について話すと、些細なことで不機嫌になった。』らへんはすべて躁エピソードですね。
「きっかけなく」とか、「ほとんど眠らずに」とか「早口・多弁で話題が転々」などこの短文で躁状態の特徴をうまく表現しているなと改めて医師国家試験のクオリティーの高さに関心させられます!(^^)!
ちなみに話題が転々とするというのが、医学用語で観念奔逸(かんねんほんいつ)というのでしたね!英語では、flight of ideasでした!頭の中でアイデアがまとまりなくポンポン飛び跳ねているイメージですね!
ということで診断は「双極性障害」になります。これだけでは、確定診断はできないですが、明らかに仕事に支障がでているのでⅠ型っぽい感じはしますね。
さて、今回の問題は治療薬が聞かれているのですが、正解はバルプロ酸とリチウムになります。
リチウムには自殺予防効果がある!
双極性障害では、気分安定薬としてリチウム(商品名はリーマス®)が投与されます。スマホの充電器にも使われているリチウムを摂取して大丈夫なんかいな?とツッコミたくなりますが、これが良く効くみたいですね。
なんと1800年代にはリチウムがうつ状態に有効と発見されていたそうです!
リチウムはうつ状態にも躁状態にも効くという優れもので、特にうつ状態の再発を予防するというのがこの薬のポイントなそうです。また自殺予防効果があるというエビデンスもあるようです。
双極性障害では自殺率が高いと言われているので、良い効果ですね。
一方で、リチウムは、精神科の薬の中で最も使い方が難しい薬と言われています。
薬には効くのに必要な最低限の濃度と、これ以上濃度が高いと死んでしまう濃度があるのですが、基本的にその中間の濃度になるように薬を投与します。
最低限の濃度と致死濃度の幅が広ければ使いやすい薬と言えるのですが、残念ながらリチウムはこの幅が非常に狭い薬です。
ですので、一歩間違えれば簡単に中毒になってしまう扱いが難しい薬です。そのため、実臨床では定期的に血液検査を行い、体内でリチウム濃度が適切な範囲におさまっているかを逐一確認しながら投与する必要があります。
これは、医者泣かせでもありますが、患者さん自身にも負担がかかる薬ですよね。
また副作用としては、下痢、食欲不振、口渇、多尿、手の震えなどが挙げられます。
リチウムで多尿が出るというのは、数年前の医師国家試験でも聞かれているくらい重要な副作用ですね!
医師国家試験(2016年) 110A13
疾病と原因物質の組合せで誤っているのはどれか。
a Fanconi症候群 - カドミウム
b 急性間質性腎炎 - 甘 草
c 急性尿細管壊死 - アミノグリコシド系抗菌薬
d 腎性尿崩症 - リチウム
e 慢性間質性腎炎 - 非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉正解はb
バルプロ酸は元々は抗てんかん薬
もう一つの正解のバルプロ酸(商品名はデパケン)は、もともと「てんかん」というけいれんが生じる脳の病気に用いられていた薬です。
てんかん患者さんでかつ、気分の不安定な患者さんがバルプロ酸を飲むことで気分が安定してくることに気づかれて、気分安定薬として用いられるようになったそうです。
バルプロ酸は、躁状態や混合状態に対して有効性が高いそうです。
◆その他の選択肢について
a バルプロ酸→正解です!
b ジアゼパム→抗てんかん薬でもありますし、抗不安薬としても用いられます!
c 炭酸リチウム→正解です!
d イミプラミン→三環系というジャンルの抗うつ薬です。双極性障害の患者さんに使うと躁状態が悪化する可能性があるので、不適切と言えます。
e パロキセチン→こちらはSSRIというジャンルの抗うつ薬です。こちらも躁状態を悪化する可能性があるので、使用は望ましくないです。
これ以外にも、双極性障害の治療薬として抗精神病薬(主に統合失調症に用いられる薬)も挙げられます。
クエチアピン(商品名はビプレッソ)やオランザピン(商品名はジプレキサ)、アリピプラゾール(商品名はエビリファイ)などがありますが、ルラシドン(ラツーダ)という薬が今年日本で承認されたようですね。
オランザピンなどでみられる体重増加といった副作用がおさえられているようです。
以上、長々とお付き合いいただきありがとうございました<m(__)m>
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