あがり症は実は病気かもしれない?~社交不安障害について 医師国家試験113E19
社交不安症の有病率は3~13%という調査も
医師国家試験 第113回(2019年度) 医師国家試験113E19
社交不安障害の患者の訴えとして特徴的なのはどれか。
a 「怖いので飛行機には乗れない」
b 「世間の人々から嫌われている」
c 「明日にも何か大変なことが起こる」
d 「人ごみや公共の場所に行くと不安になる」
e 「人前では緊張して思うように話ができない」
今回は、社交不安障害についての問題ですね!
この疾患は、「あがり症のひどい状態」とイメージするとわかりやすいです。
例えば今回の問題のように 「人前では緊張して思うように話ができない」といった症状が出ます。ですので正解は選択肢のeとなります。
社抗不安障害の定義さえ知っていれば解ける問題なので正答率も90%後半となっています。
社抗不安障害とは?
厚生労働省のサイトによると、社交不安障害とは「人に注目されることや人前で恥ずかしい思いをすることが怖くなって、人と話すことだけでなく、人が多くにいる場所(電車やバス、繁華街など)に強い苦痛を生じる病気」とされます。ひどい場合には、怖さのあまりにパニック発作を起こすこともある病気です。
誰しも人前で緊張することはあるので、「ただのあがり症なんじゃないの?」と性格のせいだと考えてしまうかもしれません。
しかし、社交不安症の方はひどい場合は不登校や引きこもりになってしまうこともあるようですので、周囲の人も安易に精神論で片づけるのではなく、もしかしたら病気なのかもしれないといった配慮が必要だと思われます。
具体的には、次のような場面を苦手とするようです。
- 人々の注目を浴びるのが怖い
- 初対面の人や偉い人の相手をするのが苦手
- 人前で話したり、食事をしたり、字を書いたりするのが苦
また症状としては、顔が赤面する、汗をかく、言葉に詰まるといった自律神経系のものが出ます。自律神経は体の興奮と安静のバランスを保ってくれる神経です。
「自律神経の乱れを整える」なんて表現を耳にしたことはありますよね!
日本では昔は「対人恐怖症」と言われていた。
社交不安障害はDSMというアメリカの精神科学会が作成した診断基準に基づく診断名です。
日本では、昔は「対人恐怖症」という病名が使用されてきました。表現の是非はともかく、対人恐怖症の方が直感的に病気のイメージはつきやすいですね。
自分が読んでいるテキストには次のような記載がありました。
以前には、このような病態は日本人に多い神経症であって、その理由としては日本人の他人の思惑を気にしやすい文化的背景があるのではないかと考えられていたことがあります。
すなわち、日本は単一民族が長期にわたって比較的平和な農耕社会を営み、その結果、周囲との協調関係を大切にする文化風土が成立し、他人に迷惑をかけてはならないと気配りをし、また他人からどのようにみられているかに気をつかう文化があるというのです。
つまり、昔は日本人特有の「空気を読む文化」がこの病気の背景にあるのではないか?と考えられていたんですね。
ただ、2008年に発表された論文(Stein MB & Stein DJ.; 2008)では、アメリカ人でも有病率は3~13%もあり、日本人の文化では説明がつかないことがわかりました。
ちなみに、その調査では以下のことがわかったようです。
◆社交不安障害の疫学(統計)的特徴
- 生涯有病率は13%程度と高い(生涯に7人に1人がかかる)
- 発症年齢が若い(平均13歳)ため、社交不安が自分の性格と捉えられやすく、未治療である場合が多い
- 成人になって突然発症する場合もあるが稀
- 併存疾患を有する場合が多い(うつ病、不安障害、アルコール依存など)
- 自然に症状が改善していくことは稀であり、慢性の経過をたどることが多い
※参考文献「社交不安障害(社交不安症)の認知行動療法マニュアル」
生涯有病率が13%とは少し多いのでは?という気もしますが、このへんは各国の診断基準によって変わってくるのかもしれません。
ただ統計調査にも「発症年齢が若い(平均13歳)ため、社交不安が自分の性格と捉えられやすく、未治療である場合が多い」と書かれているように、患者さん自身が自分で病気ではなく性格と考えてしまっている可能性もあり、潜在的には患者さんは多いのかもしれません。
いずれにせよ、「自然に症状が改善していくことは稀」とあるように、悩んでいる方は、精神論で片づけずに、精神科などの専門機関で治療を受けることが重要になりますね。
社交不安障害の治療法は、薬物療法とカウンセリング
社交不安障害の治療は、不安障害と基本的には同じで、薬物療法とカウンセリング中心になります。
薬物療法では、抗うつ薬や抗不安薬などが使用されます。特に社抗不安障害では、うつ病にも関係するセロトニンという恐怖や不安を和らげる役割のある神経伝達物質が減少していると考えられているため、SSRIという抗うつ薬が処方されます。
カウンセリングでは、認知行動療法が行われます。認知行動療法とは「心理療法の一つで、認知のゆがみを検証することによって認知と行動の変容を促し、当面の問題への効果的な対処方の仕方を修得させようとする治療法」です。
なかなか難しい定義ですね。
厚生労働省の患者向けサイトによると「心と体をリラックスさせる、苦手なモノや場所に少しずつ慣れさせていく、極端な考え方のクセを見直す」と言った感じのようです。
社交不安障害の認知行動療法マニュアルは40ページもあり、ちょっと処理しきれなかったので、また別の機会に認知行動療法全般を自分なりに勉強したいと思います。
いずれにせよ、「人前であがってしまうのは実は病気かもしれない」ということが、もっと認知されて、悩まれている方が一人でも減れば良いなと願うばかりです。
問題の解説はこちらになります!
さて、問題の選択肢の解説を簡単にさせていただきます。
a 「怖いので飛行機には乗れない」
こちらは、恐怖症の症状ですね。恐怖症には高所恐怖症や広場恐怖症などがあります。
b 「世間の人々から嫌われている」
こちらは、被害妄想が疑われる発言ですね。以前解説しましたが、「妄想=確信」でどれだけ周りが説得しても訂正できないのが特徴でしたね。統合失調症などで見られます。
妄想については、こちらを参照してください「妄想=確信!?うつ病と妄想について」
c 「明日にも何か大変なことが起こる」
これも妄想ですね。特に一次妄想と言われる統合失調症に見られる妄想ですね。一次妄想には3種類ありましたね!
一次妄想はさらに「妄想気分」「妄想知覚」「妄想着想」の3つに分けられますね。
- 妄想気分→何か恐ろしいことが起こりそうだと確信する
- 妄想着想→自分は神の生まれ変わりだと考える
- 妄想知覚→車が通りすぎた音に反応して、自分は銃で撃たれると感じる
d 「人ごみや公共の場所に行くと不安になる」
→これも選択肢aと同じ恐怖症の症状で、広場恐怖症ですね。
e 「人前では緊張して思うように話ができない」
→これが正解です!社交不安障害の症状です。
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