妄想=確信!?うつ病と妄想について 医師国家試験 114E13
うつ病で特徴的な妄想について
医師国家試験2020年度 114E13 精神科
うつ病でみられるのはどれか。
a 誇大妄想
b 罪業妄想
c 追跡妄想
d 被毒妄想
e 物盗られ妄想
今回は、「妄想」をテーマにした問題です。
うつ病では、貧困妄想・罪業妄想・心気妄想という三つの妄想が代表的です。
ということで、今回の正解はbになりますね。
さて、日常生活でも「妄想に耽(ふけ)る」なんて表現をよく使いますよね。
では精神科で用いる妄想も、日常生活で使う妄想と同じなのでしょうか?
精神科での「妄想」=「確信」
医学的な「妄想」とは、明らかに誤った内容を強く確信しており、訂正不可能な思考をさします。
この「訂正不可能」というのが鍵で、傍から聞いていると明らかにおかしな内容で、周りが指摘をしても自ら訂正ができないのです。
例えばこんな感じでしょうか?
A:「僕が好きなアイドルグループのE子は僕のことが好きなんだ。だって、テレビでもライブでもいつも僕に向かって手を振ってくれるもん。」
B:「でも、それってA君だけじゃなくて、他のファンにも向けて手を振っているのでは?」
A:「いやそんなはずはない。握手会でも、僕にだけとても優しくしてくれるんだ。いつもE子は、僕に特別な合図を送ってくれるんだよ。今日のブログでもここの部分は僕への‥‥」
という感じで、周りの人間が訂正をしようとしても、「本人はE子に愛されていると確信」を持っており、それを訂正できないのです。つまり、「妄想=確信」と言えるわけですね。
ちなみに、今回はエロトマニアと言われる妄想です。日本語では、「恋愛妄想」とか「被愛妄想」と言われますね。
「恋愛妄想」は一般的に自分より社会的地位が高い人に対して抱きやすいようです。背景には、その人自身が現状の自分に満足しておらず、社会的地位の高い人(理想像)と結びつき、満ち足りたいという心理的要因が考えられています。
「好きな芸能人○○と付き合えたら」といった日常的な妄想は誰しも一度や二度は抱いたことがあると思います。ただ、あくまでも架空の話だとわかっていて空想するわけです。
一方、「妄想」を抱いている人は、本気で自分の空想を信じていてかつ、他の人の訂正を受け付けないという点がやっかいですよね。実際の臨床現場では、精神科の先生方は妄想にどのように対応されているのでしょうね。
うつ病の患者さんでは微小妄想
さて、妄想といっても多種多様なのですが、うつ病の患者さんでは自分を過小評価してしまう微小妄想が生じます。
微小妄想は、貧困妄想・罪業(ざいごう)妄想・心気妄想の3つからなります。
貧困妄想は、自分の財産状況をマイナスに評価してしまう状態ですね。うつ状態がひどいと、本当はそこまでお金に困っていないのに、「お金がないので、入院なんてとてもできない」や少しの借金しかなくても「自分は大きな借金を抱えている。生きていても無駄だ。」などと考えてしまうことがあるようです。
罪業妄想は、自分の社会的価値をマイナスに評価してしまう状態です。自分の存在価値を自分で否定してしまう状態でしょうか。自分も医学部受験で浪人をしていた時に一時期勉強が全く手につかない時期がありました。その時は「浪人生なのに、勉強すらできない自分は終わっている。医学部を目指す価値なんてない。自分に生きている価値はない」なんて感じの、かなりマイナス思考に陥った経験があります。今更ですが、一種の罪業妄想だったのかもしれないですね(笑)
当時を振り返っても、人間って一度マイナスに考えだすと、そのまま負のスパイラルに陥って、なかなか抜け出せなくなりますよね。考えれば考えるほど「自分には価値が無い」というキーワードがこびりついて、本当にそれが事実だと思えてくるんですよね。「妄想=確信」ですね。
最近は、精神科を学んで多少は成長したので、マイナス思考に陥った時は、同級生に話を聞いてもらったり、運動するなりして「自分ひとりだけで考える」という状況を一時停止するようにしています。
あとは、マイナス思考に陥ったら、「自分は今マイナス思考に陥っている。こういう時は色々マイナスに考えがちだけど、それは本来の自分がそう考えているのではなくて、心の状態がそうしているだけ。」と言い聞かせることで、自分自身を客体化することで負のスパイラルを陥らないようにしていますね。
最後の心気妄想は、自分の健康状態をマイナスに評価するというものですね。うつ状態に陥ると、どうも身体自体は健康なのに、自分は重い病気を患っていると考えてしまうようです。最悪のケースは、「自分は重い病気を患っているので、先は短い。ならいっそ早くにこの世からいなくなろう」と自殺を図ってしまうことです。
どうしてうつ状態になるとこれらの妄想をいだいてしまうのでしょうか?科学的なメカニズムは現時点ではわかってないようですね。
いずれのせよ、うつ病でこれらの妄想を抱いていしまうのは、患者さんがおかしいのではなく、心の病気がそのような妄想を抱かせてしまっているということです。
「妄想=確信」なので、周りが「そんなかとないと思いますよ」と伝えても妄想が訂正される可能性は低いです(というか、訂正されたらそれは妄想ではない)。
ですので、例えば罪業妄想なら、「自分で価値がないと思うのですね。でも、私は○○さんと出会えてうれしいですよ。」的な傾聴と共感の姿勢で患者さんに安心感を与えてあげるのが大事なのだと思います。
とはいえ、私自身医学生でまだまだ勉強すべき立場なので、今後実習や研修医生活を通してこういった妄想を抱いている患者さんへの適切な対応を学んでいけたらと思います。
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おまけ
残りの選択肢も簡単に確認しますと。
a 誇大妄想→これは、自分を過大評価して、自分はすごいと思い込む妄想です。双極性障害の躁状態の際などに見られますね。具体的には、自分は王族の血族だと思う血統妄想などがありますね。
c 追跡妄想→これは自分の後をつけられているように思う妄想ですね。監視されていると感じる注察妄想がセットになることもあるようですね。
d 被毒妄想→食べ物や飲み物に毒が盛られていると思う妄想ですね。統合失調症や認知症でみられます。
e 物盗られ妄想→これは自分の財布が盗まれたなどと思う妄想ですね。認知症で見られることが有名ですね。