精神科医を目指す医大生の備忘録

精神科に興味あるけど、どうやって勉強したらいいかわからない。という悩みを解決するために医師国家試験を解説しつつ、勉強していくことにしました!一般の方でも解けちゃったりするので、ぜひともお付き合いくださいませ!

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妄想はなぜ生じるか?~妄想とは患者にとって自分の世界を守るための物語である~

「妄想」とは「物語」である

前回、うつ病の妄想についての問題を解説させていただきました。

d-lemon.hatenablog.com

 

ちょうど今読んでいる春日先生の本に妄想について興味深い記述があったのでやや長いですが引用させていただきます。

 

医学的には「妄想=確信」ですが、患者さんからすると「妄想=自分自身を納得させるための物語」という解釈もできるんですね。

 妄想はなぜ生じるのか?

※p147から引用させてもらっています。

 

なぜ妄想は生じるのか。我々が妄想を一笑に付し、あるいは当惑して立ち尽くしてしまうのは、それがあまりにも常識からかけ離れ、現実感覚にそぐわないからであろう。

日常に闖入した異物としか思えない違和感が、我々に不安や危機感を呼び覚まさせる。同時にその突飛さに対し、せめて笑いを持って防御線をはらずにいられない。

 

妄想とは物語りである。患者はその物語りを自分の人生に導入することによって、やっと世界を納得することが可能になる。

 

例えば統合失調症の発病当初においては、しばしば途方もない病的不安が患者を包み込む。同時に感覚は鋭敏となり、普段なら気にもせずに見過ごしている事象に何らかの作為や意図を察知せずにはいわれなくなる。

 

すると悪意と不条理とで覆いつくされた場所に立たされているように患者は実感する。

 

人間はそんな危うい状態にいつまでも耐えられるものではない。何とかしなければ。だが、どうすればよいのか。精神科を受診するのが「何とかする」に相当するわけだが、もちろん当人はそんな発想をしない。

 

自分の頭の中に異変が生じたわけではなく、自分の周囲に何か不穏な事態が起きつつあると想像する。地動説でなく天動説を採用するわけである。

 

(以下略:統合失調症の被害妄想の具体例「自分は秘密組織に狙われているetc」)

 

この被害的かつ陰謀史観めいた物語は、患者本人に怒りや恐れを与える。そして同時に、自分の不運や不幸や世間とのギャップを一挙に説明してくれる。天動説のニュアンスを帯びた他責的な物語の登場によって、世界は理解可能なものとなり、本人の顔も立つのである。したがって妄想は敗北の物語であると同時に、患者に立つ瀬を与えると言意味では勝利の物語でもある。

 

となれば、精神科医は治療と称して闇雲に患者から妄想を取り上げてもよいのかといった疑問が生じても不思議ではあるまい。患者が窮余の策としてすがっている「物語」を、一方的に奪い去ることは許されるのか。

 

現実には、妄想だけを患者の頭の中から抜き取るということはできない。薬物の作用は、まずは病的な不安感や焦燥感を抑え、あえて妄想という物語を必要としなくなるように働くようである。

 

それは理にかなっているだろう。ただし落ち着きを取り戻し、妄想も消え失せた患者がそのまま以前の元気な姿に戻るかというと、なかなか微妙なものがある。

 

どうも気が抜けてしまったような、どこか精神が弛緩してしまったような状態が持続する。

 

これを陰性症状などと称するが、素朴な印象としては、分かりやすい物語を失ってしまった後の気が抜けてしまった状態を彷彿されるのである。

 

物語はエネルギーそのものであるといったイメージを抱かずにはいられない。

 

以上が引用です。 

 

「なぜ妄想が生じるのか?」というテーマは気になっていたので、なるほどな~と思わされる文章でした。さすが臨床経験が豊富な精神科医の先生ですね。

 

以前のブログで医学的な妄想とは、「明らかに誤った内容を強く確信しており、訂正不可能な思考」と紹介させていただきました。つまり、周りからみたら、明らかにおかしい空想をしているにも関わらず、本人はその空想をおかしいと思えない。むしろ、自分の空想を確信している状態です。

 

なので、妄想は外からみたら病的な症状と考えられます。一方、春日先生の見解では、患者の立場からすると「妄想=自分自身を納得させるための物語」と考えられるわけですね。

 

統合失調症とは、「自我の崩壊」と言われます。つまり、普通の人なら自分は自分ひとりと認識できるのですが、統合失調症では「もう一人の自分」が存在するため、「自分自身がわからなくなる」という緊急事態に陥っているわけです。

 

そのような自分自身の緊急事態を自分なりに解釈するために「妄想世界を導入する」という考え方はなるほどなと納得させられます。

 

妄想自体は、患者さんの本質的な問題ではなく、妄想を生じさせているような不調が患者さんにとって問題なわけですね。ですので、アプローチの対象も妄想自体よりも、もっと根本的な部分になってくるわけですね。

 

ちなみに、春日先生の文章の

精神科医は治療と称して闇雲に患者から妄想を取り上げてもよいのかといった疑問が生じても不思議ではあるまい。患者が窮余の策としてすがっている「物語」を、一方的に奪い去ることは許されるのか。

という部分もなかなか考えさせられますね。

 

自分自身はまだ学生なので、当然正解が何かはわからないですし、そもそも答えは一つではないと思います。今後、実際に患者さんと接する中で、患者さんにとって最善の治療法は何か?ということを考え行けたらと思います。

 

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以下、完全におまけです(笑)

ブロイラーの4つのAに幻覚・妄想が含まれない理由

統合失調症には精神医学的にブロイラーの4Aと呼ばれる症状があります。

  • 連合弛緩:loosening of Association 
  • 両価性:Ambivalence
  • 自閉性:Autism
  • 感情平板化:flattening of Affect

ブロイラーさんが統合失調症の特徴はこの4つだ!とまとめた感じですね。

 

それぞれの項目については別の機会で解説できたらと思います。

ところで、「統合失調症=妄想や幻聴」というイメージが強いと思うのですが、なぜブロイラーの4Aには「妄想・幻聴」が含まれていないのでしょうか?

 

それは、春日先生が指摘されているように、ブロイラーは統合失調症の疾患の本質的な部分を4つの概念として示し、幻覚・妄想などの表面的な症状は副次的に産生されるものと考えたからです。

 

ブロイラーさんは、4つのAのなかでも、とりわけ連合弛緩という「おしゃべりの内容がどんどん関連のない話題に変わっていく症状」が重要であると考えていたようです。

 

医師国家試験にもブロイラーの4Aはマニアックすぎて出ないと思いますが・・・笑 

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