精神科医を目指す医大生の備忘録

精神科に興味あるけど、どうやって勉強したらいいかわからない。という悩みを解決するために医師国家試験を解説しつつ、勉強していくことにしました!一般の方でも解けちゃったりするので、ぜひともお付き合いくださいませ!

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発達障害の子供にいきなり薬はダメ!? 医師国家試験 

 発達障害の子供は、まずは様子を見ることが大切!

医師国家試験(2019年度) 113D33 精神科

6歳の男児。落ち着きのなさを心配した父親に連れられて来院した。在胎38週、出生体重3,422gで仮死なく出生した。乳幼児期の発達には明らかな遅れを指摘されたことはない。現在幼稚園の年長組であるが、集団での移動中に興味があるものに気を取られて飛び出してしまうことが時々ある。順番待ちが苦手で、順番を守れずに同じクラスの子どもとけんかになることがある。また、先生の話をじっと聞いていることができず、勝手に部屋を出ていくこともある。怒られると感情を爆発させ、手を出してしまうこともある。しかし、落ち着いているときは会話も上手にでき、自分の名前をひらがなで書くことができる。人懐っこく、集団での遊びが好きである。神経診察を含む身体所見に明らかな異常を認めない。

父親への説明として適切なのはどれか。

a 「危険を防ぐため行動を制限しましょう」
b 「家庭でもっと厳しくしつけをしましょう」
c 「まず症状を抑えるお薬を内服しましょう」
d 「特に問題はないので通院の必要はありません」
e 「完壁を求めすぎず自信を失わせないよう配慮しましょう」

今回は発達障害についての問題ですね!正答率が8割強なので、精神科問題にして難しい(悩ましい)問題でしょうか。個人的には、実臨床での判断を問う問題なのでとても良い問題だと感じました!

一昔前までは、発達障害はそこまで注目されていなかった印象ですが、ここ数年はメディアなどでも取り挙げられて非常に関心が高まっています。

実際、本屋さんに行っても、発達障害の書籍がかなり出版されていますよね。特に「大人の発達障害」への関心が高まり、社会人の方で受診される方が増えた印象です。

発達障害とは?

発達障害の定義ですが、厚生労働省のサイトで発表されているものとしては、

発達障害者支援法において「自閉症アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害学習障害注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの

 定義されています。

 

正直ピンとこないですよね(笑)

簡単に言うと、自閉症とかADHDなど低年齢で発症する病気の総称といった感じでしょうか?

 

下の図のように、発達障害という大きなくくりの中に、自閉症学習障害ADHDなどが含まれているイメージですね。

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発達障害の概念図

それぞれの疾患が単独で発症することもありますし、複数の疾患を併発する場合もあります。

また、近年では子供の頃に見過ごされていた症状が大人で発見されるといったケースもあるようです。(学生時代には、ルーズで良かったのが、社会人になると時間を守るなど厳しい環境に変わるため、これまであまり目立たなかった症状が顕在化するといったケースがあるようです。)

今回の医師国家試験問題ではこの中で注意欠陥・多動性障害(以下:ADHD)について扱われているため、ここではADHDについて詳しく記載します。

 

ADHDの鍵は不注意と多動衝動性!

ADHDは英語のattention-defict hyperactivity disorderの略称です。attention-defictで「注意欠陥」、hyperactivityで「多動」なのでそのままですね。

 

男児に圧倒的に多く、小児の約5%にみられるとされます。5%といったら一学級30人として1.5人なので、1クラスに1人~2人はいる計算になりますね。

(成人では2.5%程度と言われており、会社の大きさにもよりますが、1部署には一人くらいいる感じでしょうか?)

症状は病名の通り、「不注意」と「多動衝動性」を示します。

 

不注意の具体例としては

  • 注意が持続しない
  • 勉強、用事、仕事をやり遂げられない
  • 持ち物が整理できない
  • 忘れ物が多い
  • 気が散りやすい

などが挙げられます。

 

衝動性と多動性の具体例としては

  • じっとしていられない
  • おしゃべりが多い
  • 順番を待てない
  • 他人の邪魔をする

などが挙げられます。

 

ADHDの症状が出るのはなぜ?

正確な原因は現時点ではわかっていないようです。兄弟共にADHDを発症するというケースもあるため、遺伝的な要因が疑われています。

しかし、ストレスが発症に関係しているともいわれており、環境的な要因もあると考えられています。

糖尿病とかも、遺伝的な要因に加えて暴飲暴食などの不健康な生活習慣が関与しているので、元々遺伝的素因がある子供が日常生活で強いストレスを受けたら発症する(症状が強く出る)といったイメージで良いのかもしれません。

いずれせによ、統合失調症にも関与する脳内のドパミンという物質に対する治療薬が効くため、脳内のドパミンという物質に関係する部分に障害があるのではないか?と考えられています。

治療は、いきなり薬の投与は避けるべし!

ADHDに関しては治療薬が存在します。メチルフェニデート覚せい剤の一種の徐放剤、商品名はコンサータ)やアトモキセン(商品名はストラテラ)の2種類があります。

ADHDの原因は脳内で情報伝達に関与するドパミンノルアドレナリンという物質が不足することにあると考えられています。(ドパミンが足りないと、注意を持続できないetc)

そして、脳内ではドパミンノルアドレナリンを無駄遣いしないように、放出後に再吸収するメカニズムがあります。

ADHDの薬であるメチルフェニデートは、この再吸収を阻害することで、ドパミンの作用時間を人工的に高めることで、治療効果を発揮します。

ただ、このADHDメチルフェニデートは本来覚せい剤であるコカインと同じ作用機序なんですよね。

もちろん、コカインは覚せい剤であるため、依存性が強く法律で禁止されています。このコカインの依存性を改善して、治療薬として用いられるようになったのがメチルフェニデートです。

ですので、もちろん薬として認可されているので、精神科医が必要と判断して服用する分には問題ありません

ただ、今回の問題のように6歳(幼稚園)の子供にいきなり薬を投与して良いのか?と言われると答えはNOですね。

メチルフェニデートは中枢神経興奮薬というジャンルに含まれており、小さい子供にはじめての診察でいきなり投与するのは問題ですよね。

そもそも、不注意や多動と言った行動は、子供なら(大人でも?)誰しも多少なりとも存在する症状です。

ですので、一度の診察でいきなり決めるのではなく、一度目の診察でしっかりと親御さんの話を聞いた上で、ADHDが疑われる可能性が高い場合は、まずは親御さんに病気を理解してもらい、薬に頼らずにできる対応からスタートするのが無難と言えますね。

ADHDは大人になると衝動性や多動性は改善すると言われていますが、基本的に根治は難しいので、一度投薬を始めるとなかなか辞めにくいです。

ですので、安易に処方するのではなく、親御さんにもきっちりとリスクを理解してもらった上で処方するのが望ましいのではないか?と個人的には思っています!

 

ということで、今回の問題での選択肢c「まず症状を抑えるお薬を内服しましょう」は誤りと言えるわけです。

ちなみに、メチルフェニデートに関しては、流通管理委員会なるものが設置されて、流通が厳格に管理されているようです。

治療はまずは、心理・社会的なアプローチから!

ということで、ADHDはいきなり薬を投与するのではなく、まずは心理社会的なアプローチから取り組むことが重要です。

具体的には、

  • 学校の席を教室の前の方にする
  • 使わない備品を片付けるなど、気を散らせる情報が少なくなるように環境整備する
  • 両親に対する心理的サポート
  • 本人の良い所を見つけてほめる

などが挙げられます。

ですので今回の問題は選択肢e「完壁を求めすぎず自信を失わせないよう配慮しましょう」が正解になります。

大人の発達障害について

最後に大人の発達障害について少し書かせていただきます。

近年、メディアなどを通じて成人になって発症するADHDが注目されています。

理由としては、学生時代は遅刻や提出期限、ミスに対して「学生だから」という理由で寛容に見逃されていたのが、社会人になるとそれらに対して厳しい目で見られるようになることで、症状が顕在化するといったことが挙げられています。

自分は学生なので、まだ比較的ゆるい環境に身を置いていますが、社会人になったら見積書などで数字を一桁間違えると、ほんとに命取りですもんね。

昔ではこういったADHDと考えられる症状も、「やる気が無い」といった本人の努力の問題として片付けられていたので、しっかり病気として認知されるようになってきたのは非常に望ましい状況だと思います。

ただ、ここ数年は発達障害バブル的な感じで発達障害でない人も過剰に発達障害と診断されているような印象も受けました。

ADHDの自己セルフチェックを見たことがありますか?

ADHD自己セルフチェックの例

・物事を行うにあたって、難所は乗り越えたのに、詰めが甘くて仕上げるのが困難だったことが時々ある。

・計画性を要する作業を行う際に、作業を順序だてるのが困難だったことが時々ある。

・約束や、しなければならない用事を忘れたことが時々ある。

・じっくりと考える必要のある課題に取り掛かるのを避けたり、遅らせたりすることが、頻繁にある。

・長時間座っていなければならない時に、手足をそわそわと動かしたり、もぞもぞしたりすることが頻繁にある。

・まるで何かに駆り立てられるかのように過度に活動的になったり、何かせずにいられなくなることが頻繁にある。

精神科病院のチェックシートを引用)

上記のチックシートはあくまでも一例ですが、正直「自分自身に当てはまるな―」と思ってしまいます(笑)

私自身がADHDっぽいってだけなのかもしれませんが、「約束や、しなければならない用事を忘れたことが時々ある。」とか誰しも経験する症状では?と思ったりもします。

なので、近年の発達障害ブームのおかげで、本来ADHDでない患者さんも一定数過剰診断されているのではないかと懸念されているようです。

 

もちろん、それで患者さんが助かっているのであれば問題ないのですが、前述したようにメチルフェニデートコンサータ)という薬は中枢神経を刺激する薬であり、体に大きな影響を及ぼす薬であることは間違いありませんし、費用も結構高いです。

 

発達障害の認知度が高まったことは非常に望ましいので、今後は適切な診断と治療が運用されればより良いなと思う次第です!

 

とはいえ、ADHDの診断って、診察室で症状を確認することも難しいので、ある程度過剰診断になっても仕方ないのかなという気もした入りします。

 

このへんは、自分は将来医師になった際に色々悩むんでしょうねー(;・∀・)

 

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◆おまけ(選択肢の解説)

今回はADHDの問題でしたね。

「集団での移動中に興味があるものに気を取られて飛び出してしまうことが時々ある。」「順番待ちが苦手で、順番を守れずに同じクラスの子どもとけんかになることがある。」「また、先生の話をじっと聞いていることができず、勝手に部屋を出ていくこともある。」「怒られると感情を爆発させ、手を出してしまうこともある。」といった不注意・多動性・衝動性症状が見られますね。

 

「父親への説明として適切なのはどれか?」という問題でしたが、

a 「危険を防ぐため行動を制限しましょう」ADHDは基本的に根治は難しいので、行動を制限してしまったら日常生活に支障をきたしますね。もちろん不注意があるので、事故にあわないように配慮した行動を指導することは大切です。


b 「家庭でもっと厳しくしつけをしましょう」→よくあるひっかけですが、ADHDはしつけの問題ではありません!脳の障害ですので、むしろ親御さんのしつけの仕方が悪いわけではない!と伝えてあげることが大切です。


c 「まず症状を抑えるお薬を内服しましょう」→すでに解説したように、非常に作用が強い薬ですので、いきなり薬を投与するのはダメですね。

 

d 「特に問題はないので通院の必要はありません」→これは診療放棄ですね(笑)ご両親が悩まれているので、医師としては適切な対応をする必要があります。


e 「完壁を求めすぎず自信を失わせないよう配慮しましょう」これが正解でしたね!まずは心理社会的アプローチが重要です!

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