精神科医を目指す医大生の備忘録

精神科に興味あるけど、どうやって勉強したらいいかわからない。という悩みを解決するために医師国家試験を解説しつつ、勉強していくことにしました!一般の方でも解けちゃったりするので、ぜひともお付き合いくださいませ!

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リカバリーという言葉の意味~心の病気になると本人も家族もつらい

リカバリーとは、自分らしく生きていくことを取り戻す過程

 今回は、年末に読んだ本の紹介です。

統合失調症の人の気持ちがわかる本」という本なのですが、実際に統合失調症の患者さんとその家族を対象に実施したアンケートをベースに執筆された本です。

 

そのため、統合失調症の患者さん自身やそのご家族が悩まれていることについて知ることができる本です。

 

自分は、実習で何度か統合失調症の患者さんと接したことがあるのですが、なかなか患者さん自身に話を伺う機会が無かったり、あったとしても上手く聞き出すことが出来なかったりしたので、この本を通して「実際困っていることは何か」を知ることが出来て大変勉強になりました。

 

統合失調症の人の気持ちがわかる本 (こころライブラリーイラスト版)

統合失調症の人の気持ちがわかる本 (こころライブラリーイラスト版)

リカバリーとは?

この本の中の『「リカバリー」について知ろう』というコラムが大変良かったので、少し抜粋させていただきます。(以下、統合失調症の人の気持ちがわかる本 (こころライブラリーイラスト版)p48より抜粋)

 

・病気が人生を決めるわけではない

英語の「リカバリー」には、「回復」、「改善」などの意味がありますが、近年、アメリカなどでは「リカバリー」は単に病気や障害が「治る」ことよりも、もう少し広い意味で使われるようになっています。日本でも、その考え方が受け入れられるようになってきています。

病気の部分に注目し、「治る」ことだけをゴールととらえると、思うように回復が進まないときにはいらだち、あたかも自分の人生が決まってしまったかのように感じてしまいます。

「精神病や障害があるから無理ではないか」と自分自身を「病気」の枠の中に封じ込め、自分らしく生きることが難しくなってしまいます。

 

・自分で自分らしく生きることを決める

一方、リカバリーとは、「自分らしく生きていくことを取り戻す過程」そのものを指します。自分にとって、大切なこと、価値あることが人によって違うように、「リカバリーとは何か」は、人によって異なります。

100人いたら、100通りのリカバリーがあるといっても過言ではありません。

たとえ病気や障害があっても、周囲のサポートを受け、薬を使いつつ、自分らしく元気に生きる。

そのために必要なことを「患者」としてでなく、「一人の人間」として選びとっていく。

そして自分らしく、意味のある人生を送る。

その道のりすべてが、リカバリーなのです。

 精神疾患は治るのに時間がかかる

統合失調症うつ病などの精神疾患は治るまで年単位の時間がかかることがあります。

例えば、統合失調症の根本的な原因は明らかになっていませんが、疾患の発症に長期間の強いストレスが関係していると言われています。

病気の発症以前から患者さんの精神に長期的に大きな負荷がかかっているため、治療にもその分時間がかかりますよね。

また治るといっても、「骨折が治る」といった完全に元通り復元するという意味とは少し異なり、症状が最重症の時よりは良くなるといったニュアンスの場合もあります。

ですので、患者さん自身や家族が治療経過にもどかしさを感じるはよくあるようです。

そんな際に、完全に元通り治ることを目指すのではなく、今回のリカバリー(自分らしく生きていくことを取り戻す過程)という発想を目標に持つことができれば、少しだけ心の余裕を持って治療に取り組めるのかなと感じました。(「自分らしく」って言葉が、肩ひじ張らない感じで個人的には、いいなと思いました。)

 

緩徐な発症や思春期の発症は予後が悪い

ちなみに過去の医師国家試験にも、緩徐な発症は予後不良因子として出題されています。

第107回医師国家試験 D20
統合失調症の良好な予後に関連するのはどれか。3つ選べ。
a 緩徐な発症
b 思春期の発症
c 病前の良好な社会適応
d 発症における誘因の存在
e 循環気質的傾向の病前性格

ちなみに、正解の予後良好の因子はc,d,eとなります。

逆に、緩徐な発症だと薬が効きにくかったり、周りにの人に病気だと気づいてもらえないなどの理由で予後が良くないようです。

確かに、昨日まで元気だった友達が、いきなり「自分はCIAに狙われている」と真顔で言い出したら、なんかおかしいと気づいてもらえますもんね。それが、数ヶ月や年単位で進行すると、その人の個性として扱われて病気が見逃される可能性がでてきますよね。

他に、統合失調症は10代後半から20代前半の若年男性に発症することが多いのですが、若いときに発症してしまうと、社会経験を積んでいないので、コミュニケーション能力がきちんと形成されていないため、治りが良くないとも言われています。

例えば、一度働いたことがあれば、統合失調症になった後でも復職できる可能性は高いですが、学生時代に発症し場合、改善した後にそこからはじめての就職活動となると、なかなか就職が難しいという現実があるようです。

 

精神疾患は本人も家族も苦しい

精神疾患にかかると、本人が苦しいのはもちろんですが、治癒過程が緩徐で時間がかかるため、サポートする家族もその歩みの遅さにもどかしさやいらだちを覚えることも少なくありません。

そういった本人と家族の葛藤についてこの本はわかりやすく書かれていました。

統合失調症は急性期→消耗期→回復期の三段階に進むので、本の内容を抜粋しつつそれぞれの時期の本人と家族の葛藤の例をみてみましょう。

急性期

発症直後の神経の興奮が激しい時期。妄想や幻覚などの症状がでる。

◆本人のつらさ

・幻想や妄想に悩まされる

・否定的な内容の妄想が多く、強い不安にさいなまれる

・周囲が症状を理解せず、孤独を感じる

◆家族のつらさ

・何がなんだかわからない

・突然の発症にどう対処していいかわからない

・予期せぬ事態に恐れを抱く

 

消耗期

急性期の反動で急速にエネルギー不足となる時期。元気がない。

◆本人のつらさ

・つらくて何をする気もおきない

・何を見ても心が動かない

◆家族のつらさ

・もどかしく感じる

・先行きに不安を感じる

・元気のない本人にどう接していいかわからない

回復期

少しずつエネルギーがたまり、回復していく時期。

◆本人のつらさ

・あせりが強くなる

・思うようには回復しないことに腹立たしくなる

・周囲の期待がプレッシャーになる

◆家族のつらさ

・回復のスピードを期待していまう

・思ったより回復が進まないと失望や戸惑いを感じる

 

(以上、統合失調症の人の気持ちがわかる本 (こころライブラリーイラスト版)p6より一部抜粋)

 

こういった感じで、治りが遅ければ遅くなるほど、家族の無意識のプレッシャーも強くなり、患者さんの新たな重荷となることもあります。

もちろん、家族からすると「以前はあんなに元気だったのに」という思いがあるので、仕方ない部分もあるのでしょうが、「患者も家族も不幸」という状況は良くないですよね。

今回、この本を読んで精神科医の役割はこういった状況を改善するというのも含まれるのだなと感じました。

例えば「患者さんと家族にリカバリー新たな視点を提供する」ということも、間接的には治療になるはずですよね。

 

精神科について詳しく勉強すればするほど、精神疾患は簡単に治らないという厳しい現実や精神科医にできることは非常に小さいということを痛感させられます。

だからこそ、標準的な医学的治療だけでなく、細かいサポートもできるような精神科医になれたらなと思う次第です。

 

こういった「患者さんの気持ち」が書かれた本から学べることは大変多いので、引き続き「うつ病」や「発達障害」など違う病気の本も読んで、また紹介できればと思います!

 

以上、長文お読みいただきありがとうございました。

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