精神科医を目指す医大生の備忘録

精神科に興味あるけど、どうやって勉強したらいいかわからない。という悩みを解決するために医師国家試験を解説しつつ、勉強していくことにしました!一般の方でも解けちゃったりするので、ぜひともお付き合いくださいませ!

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【精神科救急】攻撃性のある状態の患者さんにはどう対応したらいい? 医師国家試験106H11

医師国家試験 精神科 106H11

106H11
医療面接中に語調やしぐさに怒りの感情を伴っている患者への対応として最も適切なのはどれか。
a 直ちに別の医師に交代する。
b 患者の怒りの感情を無視して面接を続ける。
c 反応として生じた医師自身の怒りの感情を表現する。
d これまで行った診療行為の医学的正当性を主張する。
e 何が患者を怒らせたかを理解したいという気持ちを伝える。

 純粋な精神科救急の問題は医師国家試験には出題されていないので、今回は精神科救急っぽい問題を選びました。

テーマは「医療面接中に語調やしぐさに怒りの感情を伴っている患者への対応」ですね。

詳細な解説は最後に行いますが、正解はeですね!常識的な問題なので正答率も100%近くあったようです。

もちろん、教科書的には納得できるのですが、実際の医療現場では、医療従事者も人間ですので、a~dのような対応してしまうケースもあるかもしれませんね。

そもそも精神科救急とは?

精神科救急は、精神症状のある患者への救急対応

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精神科救急のイメージ

精神科の救急について詳しく記載された「精神科救急診療ガイドライン2015」というものが存在します。それによると、以下のように大変丁寧な定義がされています。

1.精神科救急とは?
 精神疾患によって自他への不利益が差し迫っている状況を「精神科救急状態」と定義する。

  ~中略~
 精神科救急医療が指し示す内容は,狭義には救急外来での危機介入や医学的処置などの救急診療であるが,広義には急性期入院医療が含まれる。これが最も重要な領域である。双方の包含をあえて強調する場合は,「精神科救急・急性期医療」と並列的に表記することもある。
 単に「精神科救急」というときは,以上のすべてを包括する総称で,前記のどれに重点を置くかは文脈による。

ただ、長すぎて直感的にわかりにくいので「精神科救急=精神症状のある患者への救急対応」と理解しておけば良いと思います。

精神科救急には4パターンある!

 こちらの本によると精神科救急には4つのパターンに分類できるそうです。

 一つ目は、精神疾患患者が身体疾患に罹患して救急搬送されてくるケースです。

例えば、統合失調症の患者さんが腸閉塞になったり、認知症の患者さんが肺炎になるなどですね。

二つ目は、精神疾患向精神薬により、身体症状を呈して救急搬送されてくるケースです。

例えば、解離性障害の患者さんが昏迷症状に陥ったり、統合失調症の患者さんが抗精神病薬によって悪性症候群という病気になるとい感じです。

三つめは、自殺未遂や自傷に及んだケース

四つ目は、身体疾患や入院に伴って、新たな精神症状を発症したケースです。

これは、転倒などにより頭部外傷をした結果、脳にダメージが生じて興奮や易怒性が生じるなどですね。

精神科救急と一般の救急の違いは?

普通の救急との違いは行動因子とサポ―ト因子

一般的な身体疾患の救急対応と精神症状を抱えた患者さんの救急はどのように違うのでしょうか?

それを端的にまとめてくれた表がガイドラインにあったので以下に引用させていただきます。

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精神科救急ケースの緊急度評価(ガイドラインp16参照)

この五角形チャートによると、精神科救急ケースの緊急度評価の項目として

  1. 病状因子
  2. 治療関係因子
  3. 時間帯因子
  4. 行動因子
  5. サポート因子(家族因子)

の5つが挙げられています。

病状の重症度(病状因子)、治療歴がどの程度行われているか(治療関係因子)、いつ救急搬送されるか(時間帯因子)は、心筋梗塞などの身体疾患でも関係する要素だと思います。

一方で、患者さんが自傷や他害をするリスク(行動因子)や、家族から患者さんのこれまでの情報が聞けるか(サポート因子)は特に精神科救急で重要な要素になってくるのかなと思います。

精神科の救急はどのように運用されている~埼玉県を例に

このような特性を持つ精神科救急ですが、実際はどのように運用されているのでしょうか?

具体例として、埼玉県の精神科救急体制について見てみましょう。(埼玉県を選んだ理由は特にありません。)

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埼玉県の精神科救急医療システム

精神科救急医療システム事業:埼玉県精神科病院協会

埼玉県では、基本的に平日の昼間は保健所、平日夜間や休日の対応は、精神科救急情報センター(県立精神保健福祉センター内)が窓口となっているようです。

そして、保健所や精神科救急情報センターの対応に判断によって、その日の当番の病院に依頼するという流れのようです。

ただ、症状の程度によってはより専門的な期間である県立精神医療センターや、埼玉医科大学付属病院が紹介されるということもあるようです。

どの都道府県でも、似たような精神科救急システムがとられていると思いますので、興味があればご自身の都道府県のシステムについて調べてみたください。

攻撃性のある患者さんに遭遇したら、実際どうしたらいい?

精神症状のある患者さんが救急外来に来るといっても、妄想症状の悪化、自殺企図、攻撃性、意識障害、中毒症状など様々です。

今回は、最初に紹介した医師国家試験でも扱われていた怒りや興奮、攻撃性といった症状を示す患者さんへの対応について簡単に紹介させていただきます。

まずは予防が大切

興奮状態で救急搬送される患者さんもいますが、診察途中で興奮状態になる患者さんもいらっしゃいます。そのため、事前に患者さんが興奮状態に陥った場合に備えて、環境整備を行ったり、また患者さんが興奮状態に入る際の徴候を知っておくことが重要のようです。

ガイドラインに記載された内容を抜粋すると以下のようなものが挙げられます。

1.環境整備

武器になるものを置かない、警報システムの整備

2.危険因子を知る

暴力歴、アルコール、物質乱用歴、武器の使用歴、最近の重大なストレス(特に喪失体験)、薬剤の影響、精神疾患の既往、反社会的な人格傾向

3.攻撃性の徴候

生理的変化(発汗、呼吸促迫、脈拍増加)、表情の変化(緊張、瞳孔散大)、話し方、会話の変化、落ち着きがなくなる

攻撃性のある患者さんへの介入はディエスカレーション

ディエスカレーション(de-escalation)とは専門用語になるのですが、次のような意味があります。

心理学的知見をもとに、言語的・非言語的なコミュニケーション技法によって怒りや衝動性・攻撃性を和らげ穏やかな状態に戻す。

 escalateはエスカレーターからわかるように、「段階的に拡大する」と意味があります。それに「de」という接頭語がつくことで「段階的に、小さくする」という意味になります。

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de-escalationのイメージ

 

ディエスカレーションの10要素は、サービス業でも有効!?

海外の論文でde-escalationで重要な10個の要素が紹介されています。日本語訳はこちらのshareslideを引用させていただきました。

1.パーソナルスペースに配慮
2.挑発しない
3.言葉による介入
4.簡潔にする
5.希望や感情を確認する
6.患者の言葉を丁寧に聞く
7.相手を認める、見解の不一致があっても争わない
8.法の話を持ち出す
9.選択してもらう、落ち着いてもらう
10.患者とスタッフに周知する

こういった、対応は精神科救急に関わらず、サービス業でのクレーマー対応等でも活用できそうですね。

ちなみに、ガイドラインにはもっと具体的に記載されているのですが、いくつか興味深いものを抜粋すると

 患者に対応する前に,暴力発生を誘発したり,けがの原因になる,あるいは武器として使用される可能性のある所持品(ネクタイ,スカーフ,装飾品,ペン,ハサミ,バッジなど)を除去する

 精神科医はネクタイをしないは有名ですが、確かにネクタイに関わらず、名札とかボールペンとかも注意が必要そうですね。

これ以外には、

・いかなる時も相手に背を向けない
・壁やコーナーに追い詰められないようにする 

なんかは、もはや格闘技の選手へのコーチのアドバイスでは!?みたいな感じですが、緊急時には医療従事者が自分の安全を確保することが一番重要なので、こういった具体的なアドバイスガイドラインに記載されているのでしょうね。

 

 一番は、患者さんが興奮しないですむこと

以上、精神科救急について色々と記載してきましたが、最も重要なことは、そもそも患者さん自身が興奮や攻撃性といった状態に陥らないような医療を提供できることだと思います。

患者さん自身も、別に誰かを攻撃したいと本気で思っているわけもなく、その背景に何らかの疾患が隠れていることがほとんどです。

とはいえ、精神科疾患は急変することもあるため、現実に精神科救急を無くすことは難しいでしょう。ですので、もしもの時に備えて、精神科救急の知識を日頃から学んでおくことは重要だなと感じました。

問題の解説はこちら

「医療面接中に語調やしぐさに怒りの感情を伴っている患者への対応」に関する問題でしたね。

a 直ちに別の医師に交代する。

→色々努力をした結果、どうしてもその患者さんと上手く接することができなければ、別の医師に交代するということは現実にあり得ると思います。とはいえ、まずは正解のeのように共感の気持ちを示すことが模範的ですね。


b 患者の怒りの感情を無視して面接を続ける。

→これは最悪ですね。de-escalationでなく逆にescalateしちゃうことになります。

 

c 反応として生じた医師自身の怒りの感情を表現する。

→これも一切意味がないですね。こちらもb同様患者さんがescalateしてしまいますね。

 

d これまで行った診療行為の医学的正当性を主張する。

→気持ちはわからなくないですが、患者さんが怒りの感情を向けてきているときにこのような対応をしても逆効果ですね。

 

e 何が患者を怒らせたかを理解したいという気持ちを伝える。

→正解です。落ち着いた対応で、患者さんの気持ちをde-escalateしましょう。

 

以上、長文お付き合いいただきありがとうございました。

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