精神科医を目指す医大生の備忘録

精神科に興味あるけど、どうやって勉強したらいいかわからない。という悩みを解決するために医師国家試験を解説しつつ、勉強していくことにしました!一般の方でも解けちゃったりするので、ぜひともお付き合いくださいませ!

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あがり症は実は病気かもしれない?~社交不安障害について 医師国家試験113E19

社交不安症の有病率は3~13%という調査も

医師国家試験 第113回(2019年度) 医師国家試験113E19

社交不安障害の患者の訴えとして特徴的なのはどれか。

a 「怖いので飛行機には乗れない」
b 「世間の人々から嫌われている」
c 「明日にも何か大変なことが起こる」
d 「人ごみや公共の場所に行くと不安になる」
e 「人前では緊張して思うように話ができない」

 今回は、社交不安障害についての問題ですね!

この疾患は、「あがり症のひどい状態」とイメージするとわかりやすいです。

例えば今回の問題のように 「人前では緊張して思うように話ができない」といった症状が出ます。ですので正解は選択肢のeとなります。

社抗不安障害の定義さえ知っていれば解ける問題なので正答率も90%後半となっています。

社抗不安障害とは?

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人前であがってしまう人

厚生労働省のサイトによると、社交不安障害とは「人に注目されることや人前で恥ずかしい思いをすることが怖くなって、人と話すことだけでなく、人が多くにいる場所(電車やバス、繁華街など)に強い苦痛を生じる病気」とされます。ひどい場合には、怖さのあまりにパニック発作を起こすこともある病気です。

誰しも人前で緊張することはあるので、「ただのあがり症なんじゃないの?」と性格のせいだと考えてしまうかもしれません。

しかし、社交不安症の方はひどい場合は不登校や引きこもりになってしまうこともあるようですので、周囲の人も安易に精神論で片づけるのではなく、もしかしたら病気なのかもしれないといった配慮が必要だと思われます。

具体的には、次のような場面を苦手とするようです。

  • 人々の注目を浴びるのが怖い
  • 初対面の人や偉い人の相手をするのが苦手
  • 人前で話したり、食事をしたり、字を書いたりするのが苦

また症状としては、顔が赤面する、汗をかく、言葉に詰まるといった自律神経系のものが出ます。自律神経は体の興奮と安静のバランスを保ってくれる神経です。

「自律神経の乱れを整える」なんて表現を耳にしたことはありますよね! 

日本では昔は「対人恐怖症」と言われていた。

社交不安障害はDSMというアメリカの精神科学会が作成した診断基準に基づく診断名です。

日本では、昔は「対人恐怖症」という病名が使用されてきました。表現の是非はともかく、対人恐怖症の方が直感的に病気のイメージはつきやすいですね。

自分が読んでいるテキストには次のような記載がありました。

以前には、このような病態は日本人に多い神経症であって、その理由としては日本人の他人の思惑を気にしやすい文化的背景があるのではないかと考えられていたことがあります。

すなわち、日本は単一民族が長期にわたって比較的平和な農耕社会を営み、その結果、周囲との協調関係を大切にする文化風土が成立し、他人に迷惑をかけてはならないと気配りをし、また他人からどのようにみられているかに気をつかう文化があるというのです。

 つまり、昔は日本人特有の「空気を読む文化」がこの病気の背景にあるのではないか?と考えられていたんですね。

ただ、2008年に発表された論文(Stein MB & Stein DJ.; 2008)では、アメリカ人でも有病率は3~13%もあり、日本人の文化では説明がつかないことがわかりました。

ちなみに、その調査では以下のことがわかったようです。

◆社交不安障害の疫学(統計)的特徴

  • 生涯有病率は13%程度と高い(生涯に7人に1人がかかる)
  • 発症年齢が若い(平均13歳)ため、社交不安が自分の性格と捉えられやすく、未治療である場合が多い
  • 成人になって突然発症する場合もあるが稀
  • 併存疾患を有する場合が多い(うつ病、不安障害、アルコール依存など)
  • 自然に症状が改善していくことは稀であり、慢性の経過をたどることが多い

※参考文献「社交不安障害(社交不安症)の認知行動療法マニュアル」

 

生涯有病率が13%とは少し多いのでは?という気もしますが、このへんは各国の診断基準によって変わってくるのかもしれません。

ただ統計調査にも「発症年齢が若い(平均13歳)ため、社交不安が自分の性格と捉えられやすく、未治療である場合が多い」と書かれているように、患者さん自身が自分で病気ではなく性格と考えてしまっている可能性もあり、潜在的には患者さんは多いのかもしれません。

いずれにせよ、「自然に症状が改善していくことは稀」とあるように、悩んでいる方は、精神論で片づけずに、精神科などの専門機関で治療を受けることが重要になりますね。

社交不安障害の治療法は、薬物療法とカウンセリング

社交不安障害の治療は、不安障害と基本的には同じで、薬物療法とカウンセリング中心になります。

薬物療法では、抗うつ薬抗不安薬などが使用されます。特に社抗不安障害では、うつ病にも関係するセロトニンという恐怖や不安を和らげる役割のある神経伝達物質が減少していると考えられているため、SSRIという抗うつ薬が処方されます。

カウンセリングでは、認知行動療法が行われます。認知行動療法とは「心理療法の一つで、認知のゆがみを検証することによって認知と行動の変容を促し、当面の問題への効果的な対処方の仕方を修得させようとする治療法」です。

なかなか難しい定義ですね。

厚生労働省の患者向けサイトによると「心と体をリラックスさせる、苦手なモノや場所に少しずつ慣れさせていく、極端な考え方のクセを見直す」と言った感じのようです。

社交不安障害の認知行動療法マニュアルは40ページもあり、ちょっと処理しきれなかったので、また別の機会に認知行動療法全般を自分なりに勉強したいと思います。

いずれにせよ、「人前であがってしまうのは実は病気かもしれない」ということが、もっと認知されて、悩まれている方が一人でも減れば良いなと願うばかりです。

問題の解説はこちらになります!

さて、問題の選択肢の解説を簡単にさせていただきます。

a 「怖いので飛行機には乗れない」

こちらは、恐怖症の症状ですね。恐怖症には高所恐怖症や広場恐怖症などがあります。

 

b 「世間の人々から嫌われている」

こちらは、被害妄想が疑われる発言ですね。以前解説しましたが、「妄想=確信」でどれだけ周りが説得しても訂正できないのが特徴でしたね。統合失調症などで見られます。

妄想については、こちらを参照してください「妄想=確信!?うつ病と妄想について


c 「明日にも何か大変なことが起こる」

これも妄想ですね。特に一次妄想と言われる統合失調症に見られる妄想ですね。一次妄想には3種類ありましたね!

一次妄想はさらに「妄想気分」「妄想知覚」「妄想着想」の3つに分けられますね。

  • 妄想気分→何か恐ろしいことが起こりそうだと確信する
  • 妄想着想→自分は神の生まれ変わりだと考える
  • 妄想知覚→車が通りすぎた音に反応して、自分は銃で撃たれると感じる

 

d 「人ごみや公共の場所に行くと不安になる」

→これも選択肢aと同じ恐怖症の症状で、広場恐怖症ですね。

 

e 「人前では緊張して思うように話ができない」

これが正解です!社交不安障害の症状です。

 

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医大生に今年度人気No1の病院はどこ? ~マッチング2020年臨床研修 中間公表を受けて~

2020年度の人気No1は東京の武蔵野赤十字病院でした!

医学部生の就職先も最近はやりのマッチングで決まる!?

医学部生も就活する必要があるってご存知ですか?しかも、最近はやりの「マッチング」というキーワードのついたシステムで!

私自身は、医学部に入学するまで知らなかったのですが、入学後に先輩方が「マッチングどうするー?」と就職活動の会話をしているのを耳にして知ることとなりました。

私は現在医学部5年生で、いよいよ来年度がマッチングですので、自分の勉強の意味も込めて少し調べてみました。

 

以下、更新しました!(2021年1月19日)

www.d-lemon.site

www.d-lemon.site

 

 

一般の大学生の就活は、私立大学の受験と似ている

一般の大学生の民間企業への就活について少し調べてみたのですが、「受けたい企業にエントリーして、受かった分だけ内定をもらえる」というものなんですね。

例えば、自動車会社に就職したければ、「トヨタ」、「本田」、「日産」、「三菱」、「マツダ」などにエントリーします。そして、各社の採用面接を受けて、例えば「トヨタ」「三菱」「マツダ」の3社から内定を得られたら、その中から学生側が一番行きたい会社に就職するという感じのようです。

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一般企業への就活のイメージ

なんだか、私立大学の一般入試と似ていますね。私大受験では、受けたいだけ受験して、受かった中で一番自分の行きたい大学進学するという戦略が定石ですもんね。

医学部生の就活は、マッチングシステムを採用!

一方で、医学部生の就職活動はマッチングシステムによって行われます。マッチングと言われると最近はやりの恋愛マッチングアプリをイメージされるかもしれません。あれは、マッチングアプリが仲介して、プロフィールや好みなどの共通点から登録者同士をマッチさせるというものですよね。

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恋愛マッチングアプリのイメージ

 

医学生の就職マッチングも、「マッチング」という名前がつくので基本的な仕組みは同じです。

ざっくりとしたシステムとしては、次のような感じです。

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医学生の就職マッチングのイメージ

医学生のやること

  • まず医学生が、希望の病院の就職試験を受ける
  • 次に、医学生が受験した病院の中から、行きたい病院の希望順位をつける

◆病院側のやること

  • 就職活動を行う
  • 就職活動に来た学生のうち、来てほしい学生の希望順位をつけて

◆マッチング協議会のやること

なかなか、複雑な仕組みですよね💦

ただ、就職という人生がかかったイベントを仲介する以上、「公平性」を担保するために複雑な仕組みにせざるを得ないという背景もあるようです。(学生側としては有難い配慮です。)

なんでも、病院と研修病院の組み合わせには「ゲール・シャープレー」のマッチングアルゴリズムなるものが用いられており、なんと!?このアルゴリズム2012年にノーベル経済学賞を受賞したデビット・ゲイルさんとロイド・シャープレーという二人の学者が開発したアルゴリズムだそうです!

 

ノーベル経済学者の先生が考えたアルゴリズムを自分ごときに正確に説明できるはずもないので、興味がある方は下記の医師臨床研修研修マッチング協議会の「組み合わせ決定のアルゴリズム」という項目を参照してください!(Flashがないと見れないかもしれなんです(´;ω;`))

医師臨床研修マッチング協議会 −Japan Residency Matching Program−

 

ちなみに、マッチング協議会の手引きには、次のような記載がありました。

このアルゴリズムの優れているところは、学生側も病院側も相手や他者がどんなふうに登録しているかをアレコレ考えて戦略を立てる必要は一切ないことです。
このアルゴリズムは耐戦略性を有しているので、素直に自分が希望する順番どおりに登録することが、学生と病院双方にとって最も良いマッチ(組み合わせ)結果となるのです。

確かにアルゴリズムによって判断されるので、「かけひき」的な要素は比較的排除されますよね。

ただ、後述する「中間公表」が存在するため、多少のかけひきは存在していると思われます。今頃6年生は先日の中間公表結果を受けて悩んでいるんでしょうか(´;ω;`)

そもそも、なぜマッチングシステムが導入されたの?

医師臨床研修マッチングは2003年(平成15年)にはじめて開始されました。

マッチング手引きには、次のような記載がありました。

研修病院が各々、公募で研修医採用を行う場合、研修病院は内定辞退による欠員や過剰採用への対応が必要となります。

また、研修医が複数施設から内定を受け取った場合、回答締め切り日の差異などで、最も希望する病院と雇用契約を結ぶことができない可能性もありました。
こうした非効率を回避するため全国一斉に、すべての参加者(医学部 6 年生等の研修希望者)と参加病院(研修病院)が合理的、かつ効率的に組み合わせを決定できるシステムが研修医マッチングです。

 昔は、一般企業と同じ就職システムを採用してたんですね。ただ、それだと地方の学生が東京など都市部で就職活動をする際に不利益を被ったり(逆もしかり)、また病院側は内定辞退の学生が続出した場合の補填に追われたりとお互いに負担が大きかったようですね。

確かにマッチングシステムを導入すれば、全国一律に管理されるので公平性は担保されますもんね。

2003年からスタートした背景としては、2004年に現行臨床研修制度がスタートしたため、それに合わせてこのシステムが採用されたという感じのようですね。

医師の初期研修の歴史などは医師会のサイトが良くまとめられていましたので、興味があれば参照してください。

DOCTOR-ASE:医学生がこれからの医療を考えるための情報誌

先日、2020年度マッチングの中間公表が行われました!

マッチングは、いきなり行われるわけではなく、様子見のための「中間公表」というものが存在します。

中間公表では、医学生が希望第1位に登録した病院倍率が集計され、一覧として公表されます。

2020年を例にとると、例えば人気No1の東京都の武蔵野赤十字病院は定員10人に対して、応募者は97人で倍率は9.7という感じです。

この中間公表は、医学生がどの病院を第一希望にしているか?」を集計しているので、その年の医学生にとっての人気病院を示しているといえます。

もちろん、あくまでも「その年の医学生にとって人気の病院」を示しているだけにすぎず、その病院が良い病院か悪い病院かを直接的に示すわけではありませんし、募集定員が多い病院では倍率が低くなり、逆に募集定員が少ない病院では倍率が高くなる傾向になるので、この中間公表結果だけを鵜のみにしてはいけません。

2020年度、都道府県別人気病院をマップにまとめました!

自分も来年マッチングをする立場となるので、全国でどの病院が人気があるのかな?と思い、マップにまとめてみました!

自分の住んでいる都道府県の人気病院など良ければ見てみてください。

東日本編ではやはり東京を中心とした都心が人気!

量が多かったので、まずは東日本編です!

2020年度 医師臨床研修マッチング 中間公表(だいたい東日本編)

全国で今年度一番人気があったのは、東京都の武蔵野赤十字病院ですね。昨年度が応募者54人だったのに対し、今年は97人と激増していますね。定員を抜きにした単純の倍率でも、2位の大阪枚方公済病院(定員2で応募11人)5.5倍を大きく引き離しているので、すごいですねー。

 

武蔵野赤十字病院の研修医募集サイトを見た限り、ホームページからは「めっちゃ採用に力を入れてます」感は出ていなかったので、先輩とのつながりや口コミなどで人気なのでしょうか?

いずれにせよ、これだけの学生を引き付ける魅力ある病院なのでしょうね!(自分は名前は知っていましたが、ここまで人気とか知らなかったので、適当な推測ですいません(^^;))

武蔵野赤十字病院 | 職員募集 | 臨床研修部

 

全体的な傾向としては、やはり都心部の病院が人気ですね。都道府県別でも

東京都 :武蔵野赤十字病院:定員10人/応募97人:倍率9.70倍

神奈川県:横浜市立市民病院 :定員17人/応募48人:倍率2.82倍

埼玉県:さいたま赤十字病院:定員15人/応募40人:倍率2.67倍

千葉県:亀田総合病院:定員16人/応募39人:倍率2.44倍

といった感じで東京都に近い都道府県の方が人気の傾向があります。

西日本では、愛知県の一宮西病院が3.7倍で人気1位に!

だいたい西日本編もまとめてみました。

2020年度 医師臨床研修マッチング 中間公表(だいたい西日本編)

西日本では、愛知県の一宮西病院が定員10人に対して応募者37人の倍率3.7倍で人気No1でした。一宮西病院は去年は倍率1.89倍(定員9人/応募者17人)だったので今年は急増した感じですね。

一宮西病院のホームページも見てみましたが、こちらはなかなか気合の入っている印象を受けましたね。病院側の努力が今年は実ったのでしょうか?(名古屋市からやや外れているとはいえ、愛知県という都市部で2年目のモデル給料が900万円!?という好待遇も影響したのかもしれませんねー)

初期臨床研修プログラム | 初期研修医 | 一宮西病院 研修医募集|社会医療法人 杏嶺会

 

ただ、西日本は各都道府県に倍率が2を超える病院が多々あったので、東日本ほどは関東圏一極集中という印象はありませんね。

西日本に医学部が多いことなどが影響しているのかもしれませんね(適当な推測ですが・・・)

 

尚、今年は、新型コロナウイルスの影響で移動制限があったので、そのへんも影響があったのかもしれません。

私の所属する大学でも一時期東京など一部地域への病院見学が禁止されており、先輩方も非常に苦労されていました。(こればっかりは、仕方ないですけど)

 

 また、近年の医療現場の過重労働を受けて、年々QOL重視の医学生が増えているのかもしれません。

 

ちなみに「中間公表」の結果を受けて、医学生は希望順位を変更することが可能になります。

ですので、先ほど述べたようにマッチング協議会の「学生側も病院側も相手や他者がどんなふうに登録しているかをアレコレ考えて戦略を立てる必要は一切ない」という記載は必ずしも正しくなく、この結果を受けて現6年生は、色々と悩むんでしょうねー(来年は自分も他人事ではないですが…(^^;))

 

いずれにせよ、「各都道府県に均等に研修医を配分する」という社会的な意図もあると思いますが、医学生のマッチングは比較的公平性が担保されているので感謝しなければと思う次第です。(高校の同級生は、就職活動で何十社も受けたという話を聞いたので(^^;))

 

新型コロナウイルス感染症の影響で、現4・5年生は病院実習もままならない状況ですが、自分自身も可能な範囲で就活をしていきたいと思います!

 

長文お付き合いありがとございました!

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◆追記

趣味で作成したマップをツイートをしたら予想外に反響を頂けて嬉しい限りです(*'▽')

ただ、引用ツイートにてご指摘いただいた通り、「中間公表」の解釈の仕方は、何を軸としてみるかにより様々だと思いますので、各々が自分に必要なデータを利用していたければと思います!

 

言葉のサラダってなんじゃらほい!? 医師国家試験 113E9

連合弛緩が悪化するとサラダになる!?

医師国家試験(2019年度) 精神科 113E9

双極性障害でみられる思考障害はどれか。

a 連合弛緩
b 滅裂思考
c 思考途絶
d 言語新作
e 観念奔逸

今回も前回に引き続き、双極性障害についての問題です。

前回の記事はこちらです!「双極性障害が近年注目されているのはなぜ?

 双極性障害は、躁状態うつ状態の両方が出てくる病気ですが、様々な特徴的症状が出てきます。

例えば、今回の正解はeの観念奔逸(かんねんほんいつ)なのですが、これは部分的に関連のある話題が次々と浮かんで出てくるというものです。

以前書いた記事の例を再掲すると、

例えば、「先週の半沢直樹の生放送おもしろかったよね。香川照之1時間ずっと大和田常務の演技続けてたよね。あ、香川さんって言ったら、最近TOYOTAのCMに出ててほんと大活躍だよねー。そういやTOYOTAといったら、日産買収するかもしれないって噂あるけど本当?。日産もカルロスゴーンさんの件で大変だよね。ゴーンさんと言えばホリエモンと対談してたよね!  ・・・あれ、自分何の話してたっけ?」といった感じでどんどん話が脱線していくイメージです。

医師国家試験から学ぶ「双極性障害の症状とは?」

という感じですね。

観念奔逸は、お酒で酔っぱらった時にも出てくるので、誰しも一度くらいは見たことがあるのではないでしょうか?

なぜ精神科の用語はこんなに難しいのか?

自分が精神科の勉強をはじめて最初につまずいたのは用語の難しさです。

精神科の用語はとにかく難しい(´;ω;`)

例を挙げると「離人・解離・奪取・転換・言葉のサラダ・保続・両価性・途絶・制止・心迫・幻覚・錯覚・妄想」などです!

いやー、正直意味不明ですよね。

言葉のサラダって何やねん!?、小学校で昔習った「人種のサラダボウル」のこと?という感じですよね。

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言葉のサラダの勝手なイメージ

ただ、残念ながら医師国家試験でも結構問われて、正答率はやや低めになる傾向ですね。

なぜこんなに難しい言葉を使うのでしょうか?

専門用語は円滑なコミュニケーションのための手段!

「生半可な気持ちで精神科医を目指さないようにわざと難しくしているんじゃないか!?」などと疑ったこともありますが。。。

真面目な話をしますと、物事を適切に議論するためには、きっちりと定義された言葉を使用する必要があるからですね。

例えば、医学で最たる例が解剖学でしょうか?

解剖学は、心臓とか骨の名前や位置を定義する学問ですが、解剖学が存在しないとたちまち医療者間のコミュニケーションは崩壊しますね。

例えば、救急現場を想定しましょう。

救急隊員さんが、搬送先病院の救急医に対して情報提供をする際に、「患者さんがお腹を痛がっています。お腹の真ん中の方が痛いようです。」という表現だと、ある程度は情報が伝わります。

ただ、医学用語を用いれば、お腹の真ん中には「心窩部」、「臍部」、「下腹部」の3ヶ所あり、それぞれの箇所によって想定される病気も変わってきます。

つまり、医学用語によって、より厳密な議論ができるわけです。

例えば、心窩部痛なら「急性膵炎という膵臓の炎症かな?」とか大体のイメージがつくわけです。

救急現場では一分一秒を争う世界ですから、より厳密な議論をして救急車の到着前に、しっかりとこの疾患かな!?と準備できる方が良いですよね。

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腹痛といっても、場所によって疑われる疾患も変わる!

精神科でも同様の理由で専門用語が存在すると思います。

とはいえ、個人的には他の診療科よりも精神科用語の難しさは群を抜いていると思いますが苦笑

問題の解説はこちら!

ということで、仕方ないとはわかっているのですが、精神医学にはあまりにもイメージしにくい用語が多すぎるので、頑張ってイメージしやすいように工夫してみたいと思います(笑)

観念奔逸はアイデアが脱線してくイメージ!?

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観念奔逸のイメージ

個人的なイメージは、話の本筋からどんどん外れていくので、考え(観念)の乗ったトロッコが線路から脱線(奔逸)をするというのを繰り返す感じでしょうか?

 

双極性障害躁状態にはドパミンという物質が関与しているという仮説があり、アイデアが頭にどんどん湧いて出るイメージもできますね。

 

英語ではflight of ideas(=考えが飛ぶ)なので、こちらで観念奔逸を表現するとこんな感じでしょうか?

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観念奔逸は英語でflight of ideas!

個人的にはこっちの方が直感的にわかりやすいですね!

連合弛緩は、脈絡のない話題が連なること!?

続いて選択肢aの連合弛緩(れんごうしかん)ですが、これは統合失調症で見られます。

連合弛緩は医学的には「思考を構成する観念の間に意味の結びつきが乏しくなる」ことと定義されます。

簡単に言うと、これまで話をしていた内容と脈絡なく、関係のない内容をどんどん話出すという感じです。

具体的には

「私は3歳ですが、今日の天気は晴れです。サッカー選手になりたいです。カレーライスも大好きです。」

といった感じに「年齢」「天気」「スポーツ」「食べ物」と全く関係のない話題が関連性なく出てくる感じのようです。(見たことないので、あくまでも想像ですが💦)

英語ではloosening of associationsで、直訳すると「関連がゆるんでいる」ですね!ここから「話の関連性が緩まっている」とイメージできるでしょうか。

連合は「関連」という意味の「associationsが、弛緩はゆるむという意味のlooseningが相当しますね。

で、この「連合弛緩」が悪化したものが選択肢bの滅裂思考です。英語ではincoherence of thoughtです。

coherence」が一貫性という意味があるので、inと否定の接頭語がつくことで、「思考に一貫性がない」と直訳できますね。

連合弛緩(loosening of associations)では、話がなんとかつながっていたのが、滅裂思考(incoherence of thought)では完全に支離滅裂となるイメージでしょうか。

ちなみに、先ほどの私の例は、連合弛緩というより滅裂思考な気がしてきました(本物を見たことが無いので分からないですが・・・(´;ω;`))

冒頭の「言葉のサラダ」も滅裂思考と同義で使われるようです。

※参考書によっては、滅裂思考という大きな枠組みの中に、軽症の連合弛緩と重症の言葉のサラダがあるという記載もありました。

これを踏まえて、正常→連合弛緩→言葉のサラダを図示したのが下のイラストです!

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言葉のサラダのイメージ

あくまでもざっくりとですが、イメージがつくでしょうか?

観念奔逸と連合弛緩の違いは?

頭の中でどんどんアイデアが出てくるイメージは双極性障害で見られる観念奔逸でも、統合失調症で見られる連合弛緩でも同じですよね。

両者の違いはどこになるのでしょうか?

海外のサイトを調べていると

✦ 観念奔逸=Flight of ideas (fragmented ideas; frequent shifts in conversation topics)
✦ 連合弛緩=Loosening of associations (minimal logical connection between thoughts)

 観念奔逸に関しては、断片的なアイデアが湧き出るイメージでなおかつ、それに応じて話題がどんどん切り替わるという感じですね。

こちらでは、会話が成り立たないということはなく、相手に「さっき話していたことはどうなったの?」と質問されて、話が基に補正可能なイメージですかね。

 

一方の、連合弛緩は、「思考と思考の間の最低限の論理的なつながりがある」と書かれているので、正直まともに会話をするという感じではないですね。一方的に患者さんが話をしていて、それを聞き手が努力すれば理解ができるといったレベルでしょうか?

 

このへんは、自分自身が見たことが無いので、なかなか歯がゆい所ではあります。

 

思考途絶と言語新作も統合失調症で見られる

残りの選択肢の「c 思考途絶」や「d 言語新作」も統合失調症で見られる症状です。

力尽きたのでイラストは別の機会にがんばりますが(笑)

思考途絶は「患者さんが話をしている途中で急に黙りこくり、かと思えば突然会話を境する」という感じのようで「急ブレーキ、急発進」のイメージですね!

言語新作は、誰も知らない言語を作り、本人しかわからない意味付けをするというものだそうです。なかなか不思議な症状です。ネットで調べた佐賀大学精神科教室のサイトの載っていた例では、

(具体例)「体性と増性」「本人の一任は自在賦体」「私は養覚学者である」

と記載されていました。正直「???」という感じで、なかなか不思議だなーと改めて思わされます。

見たことない症状をイメージで表すのも難しいですが、引き続き自分なりにわかりやすく解釈していければと思います!(言語新作とか、実際にどんな感じなんでしょうねー)

以上、長文お付き合いありがとうございました!

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双極性障害が近年注目されているのはなぜ? 医師国家試験113D73

マライアキャリーが「双極性障害」を告白した時期に一番関心が高かった!?

医師国家試験(2019年度)精神科113D73

44歳の男性。過活動を心配した妻に連れられて受診した。3か月前から疲れがとれないと訴え、朝は起床が困難で、会社に遅刻するようになった。2週間前から、特にきっかけなく急に元気になった。「体調が最高なので、眠らなくても全く疲労を感じない」と言い、夜中に欧州支社の担当者と国際電話で話し続け、ほとんど眠らずに出勤するようになったため、妻に連れられ受診した。早口・多弁で、よく話すが話題が転々と変わりやすい。妻が家における患者の状態について話すと、些細なことで不機嫌になった。意識は清明であり、身体所見に異常を認めない。

治療薬として適切なのはどれか。2つ選べ。

バルプロ酸
ジアゼパム
c 炭酸リチウム
d イミプラミン
パロキセチン

 今回は双極性障害についての問題ですね。

双極性障害については2020年度(第114回医師国家試験)でも出題されているので2年連続の出題になります!

2020年度の問題は、双極性障害の「症状」についての問題でしたが、今回は双極性障害の治療薬についての問題になります。

正解は、「a バルプロ酸」と「c 炭酸リチウム」になります。

問題の解説はブログの最後の方で書かせてもらっています!

また2020年に出題された双極性障害の症状に関する問題はこちらを参照ください!

d-lemon.hatenablog.com

 

双極性障害への関心は近年高まっている!?

直近の医師国家試験で2年連続の出題(2019年に関しては精神科13問中2問出題!)がありましたし、日常生活を過ごしていても双極性障害について耳にする機会が多いので、個人的には双極性障害ブームが来ているのでは!?と思っていました。

が、実際に患者数が増えているかなどを調べたことがなかったので、少し調べてみました。

厚生労働省が実施している患者調査という統計のデータ(2017年10月)によると、気分(感情)障害(躁うつ病を含む)の患者は約128万人となっております。

1996年には約43万人、2008年には約104万人であったことを考えるとうつ病双極性障害を含んだ概念である気分障害の患者さんは着実に増加していると言えます。

 

ただ、双極性障害単独の統計データが見当たらなかったので、少し古いデータを引用すると以下のグラフのような推移を辿っています。

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参考文献「自殺・うつ病等対策プロジェクトチームとりまとめについて」

 

グラフを見ても確実にうつ病双極性障害も患者数が増えているのがわかりますね。

平成20年のグラフを見るかぎり、うつ病70万人に対して、双極性障害は10万人くらいでしょうか?

厚生労働省のサイトによると「日本では、うつ病の頻度は7%くらいで、I型とII型を合わせた双極性障害の人の割合は0.7%くらいといわれています。」とのことなので、単純の人口比で行くと1.2億×0.7%=8万4千人なので、大体適切な人数を反映しているでしょうか?

とはいえ、上記の厚労省のサイトには「海外では、うつ状態で病院に来ている方のうち、20~30%の方が双極性障害であるといわれています。」とあるように、実際にはもっと双極性障害の患者さんがいており、そういった患者さんが近年受診をすることで統計上の患者数は増えてきているのかもしれません。

Googleトレンドでも検索数は漸増している!

直近のデータがなかったので、社会的な関心という意味でGoogleトレンドというツールで過去10年間の「双極性障害の検索数」について調べてみました。

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Googleトレンド「双極性障害」の推移

 

すると、2010年から2020年にかけて、Google検索エンジン上では「双極性障害」というキーワードの検索数が徐々に増加していることがわかります。

グラフにオレンジで補助線を引きましたが、2010年と2020年を比較すると2倍以上は検索数が増加していることがわかりますね。

ちなみに、冒頭の大見出しにも書きましたがなぜか2018年4月に「双極性障害」というキーワードが最も検索されているんですよねー。

自分なりに調べてみたのですが、米国の有名歌手のマライアキャリーさんが自身の双極性障害を告白したニュースがこの時期に発表されたみたいです。

「マライアキャリーさんほどの有名人が告白した双極性障害ってなんぞや?」という感じで検索数が増えたのでしょうか?

それとも、双極性障害に関する何か大きなイベント(ドラマや学術的な発表etc)があったのでしょうか?

あくまでも、Googleのキーワード検索数なので、直接世間の関心を反映しているわけではないですが、色々考えてみるとなかなか面白いですね(笑)

www.afpbb.com

 

双極性障害への関心は、発達障害に比べたらまだまだ!?

個人的には、双極性障害もずいぶんと市民権を得てきたと感じていたのですが、うつ病統合失調症、また近年注目を浴びる発達障害と比較するとどうなんでしょうか?

 

ということで、再びGoogleトレンドで比較してみました!

f:id:d_lemon:20200923193737p:plain

うつ病発達障害統合失調症双極性障害の推移

調べてみると意外な結果でした!

緑が双極性障害なんですが、うつ病(青)発達障害(赤)統合失調症(黄色)に比べると双極性障害の検索数はだいぶ少ないなーという印象を受けました。

まぁ、うつ病発達障害に比べたら双極性障害の患者数は少ないので当然の結果とも言えます。

それに「躁状態(特に軽躁状態)を自分で気づくのは難しい」と言われますので、検索数では双極性障害はどうしても少なくなるのかもしれませんね。

2014年以降は発達障害の方が、統合失調症より関心が高い!

Googleトレンドで調べてみて面白かったのが、発達障害(赤)の推移ですね。

2010年頃は、統合失調症よりも検索数が少なかったのに、年々関心が高まり、2014年には統合失調症を追い抜いていますね。

さらに、2018年頃には、”王者”うつ病を抜いて検索数No1となった時期がありますね。

前回の発達障害の記事で近年「発達障害ブーム」にあったと書きましたが、2018年頃は本当に関心が高かったんだなと実感しました。

また、ここ1,2年は関心がややおさまってきた感じですね。

ちなみにですが、2020年の4月、つまり全国での緊急事態宣言の時期には「うつ病」も「発達障害」も検索数がガタ落ちしてるんですよね。

この時期は、自粛が始まったばかりで、仕事に行く機会が減ったのでうつ病発達障害に関する悩みが減ったのかもしれませんね。尚、それ以降はしっかり増加傾向にあるので、自粛疲れをきっちり反映しているのではないでしょうか。

コロナの影響で減少傾向にあった自殺者数が増えるとも言われているので不安なところですね。

以上は、完全な推測でしかないのですが、データが簡単に手に入る時代なので、気軽に色々調べれて便利な時代ですね!

 

双極性障害が増えたのはなぜ?

さて、タイトルの話題に戻りますが近年双極性障害の患者数が増加しているのはなぜでしょうか?

日本における双極性障害研究の第一人者である加藤忠史先生の「双極性障害」という本によると、双極性障害Ⅱ型の登場により、双極性障害の概念が広くなり、診断される患者数が増えたのではないか?」と言及されていました。

本によると双極Ⅰ型障害は「入院が必要になるほど激しく、放っておいたら本人の人生が台無しになってしまうほど大変な躁状態、そしてうつ状態を繰り返すもの」とされます。

一方、双極Ⅱ型障害は、「いつもと違って明らかに『ハイ』になっているけれど、入院を要するほどではない『軽躁状態』と、うつ状態を繰り返すもの」とされます。

つまり、Ⅰ型とⅡ型の違いは、躁状態の程度の違いによってのみ診断されます。

 以下、この診断基準の登場で双極性障害の患者数が増えたことに言及する部分を引用させていただきます。

DSM-5の、躁状態の診断基準は、躁状態が7日間続くこと、となっています。

そして軽躁状態の診断基準は、軽躁状態が4日間続くこと、となっています。

入院するほど重症ではないたかぶった気分が、4日間続くだけということになると、かなりいろいろな症状の方が、この診断基準にあてはまることになります。

その結果、躁うつ病という病名で診断されていた頃に比べると、この少々甘い診断基準によって、より幅広い患者さんが、双極Ⅱ型障害の診断を受けるようになってきました。

躁うつ病という病名が使われていた時代には、うつ病と診断されていたような患者さんの一部も、双極Ⅱ型障害に含まれるようになってきました。

 加藤先生によると、「診断基準の変更によって疾患概念が広がったことが、双極性障害の患者さんが増えた要因ではないか?」という感じですね。

アメリカでは、人口の4.4%(日本の6倍も!?)が双極スペクトラムであるというデータも報告されているらしく、これに関しては加藤先生もさすがに多すぎると言及されていますね。

診断基準の変更で患者数が増減するということは医療業界ではよくあることですが、双極性障害においては望ましいことだったのでしょうか?

これに関しては、実臨床を経験してない自分には難しい部分なのですが、少なくとも、これまで実は双極性障害だったけど、うつ病と診断されていて「不用意に抗うつ薬が処方されて、躁状態になったり、躁とうつを繰り返す状態になったりして経過が悪くなる」というケースの患者さんにとっては望ましいことだった言えると思います。

一方で、過剰診断された人に関しては、双極性障害の薬は血中濃度を測定する必要があり、非常に管理が大変であったり、腎障害などの副作用もあるので、本来双極性障害でない人が薬を処方されるのは良くないことですよね。

 

診断基準を変えると良い面・悪い面がでてきますが、精神疾患は診断基準で一概に線引きできるものでもないと思います。

ですので、最終的には精神科医一人一人が診断基準をベースにしつつ、その患者さん個々の状況に応じて診断し、治療方針を決定していくのが重要なのだと思います。

と、えらそうなことを書きましたが、所詮は医学生ですので、将来精神科医になった際に実臨床の難しさに打ちのめされたいと思います(笑)

 ◆医師国家試験問題の解説はこちら!

さて、つらつらと書きましたが、今回の問題を解説したいと思います!

まずは、問題文の中で「双極性障害」という診断にいたるキーワードを抜き出しますと・・・

そもそも「過活動を心配した妻に連れられて受診した。」と本人でなく、家族に連れられて受診する当たりが双極性障害の特徴をとらえた一文ですね。

その次の「3か月前から疲れがとれないと訴え、朝は起床が困難で、会社に遅刻するようになった。」の部分がうつ状態を表現していますね!

一方で、『2週間前から、特にきっかけなく急に元気になった。「体調が最高なので、眠らなくても全く疲労を感じない」と言い、夜中に欧州支社の担当者と国際電話で話し続け、ほとんど眠らずに出勤するようになったため、妻に連れられ受診した。早口・多弁で、よく話すが話題が転々と変わりやすい。妻が家における患者の状態について話すと、些細なことで不機嫌になった。』らへんはすべて躁エピソードですね。

「きっかけなく」とか、「ほとんど眠らずに」とか「早口・多弁で話題が転々」などこの短文で躁状態の特徴をうまく表現しているなと改めて医師国家試験のクオリティーの高さに関心させられます!(^^)!

ちなみに話題が転々とするというのが、医学用語で観念奔逸(かんねんほんいつ)というのでしたね!英語では、flight of ideasでした!頭の中でアイデアがまとまりなくポンポン飛び跳ねているイメージですね!

ということで診断は「双極性障害になります。これだけでは、確定診断はできないですが、明らかに仕事に支障がでているのでⅠ型っぽい感じはしますね。

さて、今回の問題は治療薬が聞かれているのですが、正解はバルプロ酸とリチウムになります。

リチウムには自殺予防効果がある!

双極性障害では、気分安定薬としてリチウム(商品名はリーマス®)が投与されます。スマホの充電器にも使われているリチウムを摂取して大丈夫なんかいな?とツッコミたくなりますが、これが良く効くみたいですね。

なんと1800年代にはリチウムがうつ状態に有効と発見されていたそうです!

リチウムはうつ状態にも躁状態にも効くという優れもので、特にうつ状態の再発を予防するというのがこの薬のポイントなそうです。また自殺予防効果があるというエビデンスもあるようです。

双極性障害では自殺率が高いと言われているので、良い効果ですね。

一方で、リチウムは、精神科の薬の中で最も使い方が難しい薬と言われています。

薬には効くのに必要な最低限の濃度と、これ以上濃度が高いと死んでしまう濃度があるのですが、基本的にその中間の濃度になるように薬を投与します。

最低限の濃度と致死濃度の幅が広ければ使いやすい薬と言えるのですが、残念ながらリチウムはこの幅が非常に狭い薬です。

ですので、一歩間違えれば簡単に中毒になってしまう扱いが難しい薬です。そのため、実臨床では定期的に血液検査を行い、体内でリチウム濃度が適切な範囲におさまっているかを逐一確認しながら投与する必要があります。

これは、医者泣かせでもありますが、患者さん自身にも負担がかかる薬ですよね。

また副作用としては、下痢、食欲不振、口渇、多尿、手の震えなどが挙げられます。

リチウムで多尿が出るというのは、数年前の医師国家試験でも聞かれているくらい重要な副作用ですね!

医師国家試験(2016年) 110A13
疾病と原因物質の組合せで誤っているのはどれか。
a Fanconi症候群 - カドミウム
b 急性間質性腎炎 - 甘 草
c 急性尿細管壊死 - アミノグリコシド系抗菌薬
d 腎性尿崩症 - リチウム
e 慢性間質性腎炎 - 非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉

正解はb

 バルプロ酸は元々は抗てんかん

 もう一つの正解のバルプロ酸(商品名はデパケン)は、もともと「てんかん」というけいれんが生じる脳の病気に用いられていた薬です。

てんかん患者さんでかつ、気分の不安定な患者さんがバルプロ酸を飲むことで気分が安定してくることに気づかれて、気分安定薬として用いられるようになったそうです。

バルプロ酸は、躁状態や混合状態に対して有効性が高いそうです。

◆その他の選択肢について

バルプロ酸→正解です!
ジアゼパム→抗てんかん薬でもありますし、抗不安薬としても用いられます!
c 炭酸リチウム→正解です!
d イミプラミン→三環系というジャンルの抗うつ薬です。双極性障害の患者さんに使うと躁状態が悪化する可能性があるので、不適切と言えます。
パロキセチン→こちらはSSRIというジャンルの抗うつ薬です。こちらも躁状態を悪化する可能性があるので、使用は望ましくないです。

 

これ以外にも、双極性障害の治療薬として抗精神病薬(主に統合失調症に用いられる薬)も挙げられます。

クエチアピン(商品名はビプレッソ)やオランザピン(商品名はジプレキサ)、アリピプラゾール(商品名はエビリファイ)などがありますが、ルラシドン(ラツーダ)という薬が今年日本で承認されたようですね。

オランザピンなどでみられる体重増加といった副作用がおさえられているようです。

cocoromi-cl.jp

 

以上、長々とお付き合いいただきありがとうございました<m(__)m>

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発達障害の子供にいきなり薬はダメ!? 医師国家試験 

 発達障害の子供は、まずは様子を見ることが大切!

医師国家試験(2019年度) 113D33 精神科

6歳の男児。落ち着きのなさを心配した父親に連れられて来院した。在胎38週、出生体重3,422gで仮死なく出生した。乳幼児期の発達には明らかな遅れを指摘されたことはない。現在幼稚園の年長組であるが、集団での移動中に興味があるものに気を取られて飛び出してしまうことが時々ある。順番待ちが苦手で、順番を守れずに同じクラスの子どもとけんかになることがある。また、先生の話をじっと聞いていることができず、勝手に部屋を出ていくこともある。怒られると感情を爆発させ、手を出してしまうこともある。しかし、落ち着いているときは会話も上手にでき、自分の名前をひらがなで書くことができる。人懐っこく、集団での遊びが好きである。神経診察を含む身体所見に明らかな異常を認めない。

父親への説明として適切なのはどれか。

a 「危険を防ぐため行動を制限しましょう」
b 「家庭でもっと厳しくしつけをしましょう」
c 「まず症状を抑えるお薬を内服しましょう」
d 「特に問題はないので通院の必要はありません」
e 「完壁を求めすぎず自信を失わせないよう配慮しましょう」

今回は発達障害についての問題ですね!正答率が8割強なので、精神科問題にして難しい(悩ましい)問題でしょうか。個人的には、実臨床での判断を問う問題なのでとても良い問題だと感じました!

一昔前までは、発達障害はそこまで注目されていなかった印象ですが、ここ数年はメディアなどでも取り挙げられて非常に関心が高まっています。

実際、本屋さんに行っても、発達障害の書籍がかなり出版されていますよね。特に「大人の発達障害」への関心が高まり、社会人の方で受診される方が増えた印象です。

発達障害とは?

発達障害の定義ですが、厚生労働省のサイトで発表されているものとしては、

発達障害者支援法において「自閉症アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害学習障害注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの

 定義されています。

 

正直ピンとこないですよね(笑)

簡単に言うと、自閉症とかADHDなど低年齢で発症する病気の総称といった感じでしょうか?

 

下の図のように、発達障害という大きなくくりの中に、自閉症学習障害ADHDなどが含まれているイメージですね。

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発達障害の概念図

それぞれの疾患が単独で発症することもありますし、複数の疾患を併発する場合もあります。

また、近年では子供の頃に見過ごされていた症状が大人で発見されるといったケースもあるようです。(学生時代には、ルーズで良かったのが、社会人になると時間を守るなど厳しい環境に変わるため、これまであまり目立たなかった症状が顕在化するといったケースがあるようです。)

今回の医師国家試験問題ではこの中で注意欠陥・多動性障害(以下:ADHD)について扱われているため、ここではADHDについて詳しく記載します。

 

ADHDの鍵は不注意と多動衝動性!

ADHDは英語のattention-defict hyperactivity disorderの略称です。attention-defictで「注意欠陥」、hyperactivityで「多動」なのでそのままですね。

 

男児に圧倒的に多く、小児の約5%にみられるとされます。5%といったら一学級30人として1.5人なので、1クラスに1人~2人はいる計算になりますね。

(成人では2.5%程度と言われており、会社の大きさにもよりますが、1部署には一人くらいいる感じでしょうか?)

症状は病名の通り、「不注意」と「多動衝動性」を示します。

 

不注意の具体例としては

  • 注意が持続しない
  • 勉強、用事、仕事をやり遂げられない
  • 持ち物が整理できない
  • 忘れ物が多い
  • 気が散りやすい

などが挙げられます。

 

衝動性と多動性の具体例としては

  • じっとしていられない
  • おしゃべりが多い
  • 順番を待てない
  • 他人の邪魔をする

などが挙げられます。

 

ADHDの症状が出るのはなぜ?

正確な原因は現時点ではわかっていないようです。兄弟共にADHDを発症するというケースもあるため、遺伝的な要因が疑われています。

しかし、ストレスが発症に関係しているともいわれており、環境的な要因もあると考えられています。

糖尿病とかも、遺伝的な要因に加えて暴飲暴食などの不健康な生活習慣が関与しているので、元々遺伝的素因がある子供が日常生活で強いストレスを受けたら発症する(症状が強く出る)といったイメージで良いのかもしれません。

いずれせによ、統合失調症にも関与する脳内のドパミンという物質に対する治療薬が効くため、脳内のドパミンという物質に関係する部分に障害があるのではないか?と考えられています。

治療は、いきなり薬の投与は避けるべし!

ADHDに関しては治療薬が存在します。メチルフェニデート覚せい剤の一種の徐放剤、商品名はコンサータ)やアトモキセン(商品名はストラテラ)の2種類があります。

ADHDの原因は脳内で情報伝達に関与するドパミンノルアドレナリンという物質が不足することにあると考えられています。(ドパミンが足りないと、注意を持続できないetc)

そして、脳内ではドパミンノルアドレナリンを無駄遣いしないように、放出後に再吸収するメカニズムがあります。

ADHDの薬であるメチルフェニデートは、この再吸収を阻害することで、ドパミンの作用時間を人工的に高めることで、治療効果を発揮します。

ただ、このADHDメチルフェニデートは本来覚せい剤であるコカインと同じ作用機序なんですよね。

もちろん、コカインは覚せい剤であるため、依存性が強く法律で禁止されています。このコカインの依存性を改善して、治療薬として用いられるようになったのがメチルフェニデートです。

ですので、もちろん薬として認可されているので、精神科医が必要と判断して服用する分には問題ありません

ただ、今回の問題のように6歳(幼稚園)の子供にいきなり薬を投与して良いのか?と言われると答えはNOですね。

メチルフェニデートは中枢神経興奮薬というジャンルに含まれており、小さい子供にはじめての診察でいきなり投与するのは問題ですよね。

そもそも、不注意や多動と言った行動は、子供なら(大人でも?)誰しも多少なりとも存在する症状です。

ですので、一度の診察でいきなり決めるのではなく、一度目の診察でしっかりと親御さんの話を聞いた上で、ADHDが疑われる可能性が高い場合は、まずは親御さんに病気を理解してもらい、薬に頼らずにできる対応からスタートするのが無難と言えますね。

ADHDは大人になると衝動性や多動性は改善すると言われていますが、基本的に根治は難しいので、一度投薬を始めるとなかなか辞めにくいです。

ですので、安易に処方するのではなく、親御さんにもきっちりとリスクを理解してもらった上で処方するのが望ましいのではないか?と個人的には思っています!

 

ということで、今回の問題での選択肢c「まず症状を抑えるお薬を内服しましょう」は誤りと言えるわけです。

ちなみに、メチルフェニデートに関しては、流通管理委員会なるものが設置されて、流通が厳格に管理されているようです。

治療はまずは、心理・社会的なアプローチから!

ということで、ADHDはいきなり薬を投与するのではなく、まずは心理社会的なアプローチから取り組むことが重要です。

具体的には、

  • 学校の席を教室の前の方にする
  • 使わない備品を片付けるなど、気を散らせる情報が少なくなるように環境整備する
  • 両親に対する心理的サポート
  • 本人の良い所を見つけてほめる

などが挙げられます。

ですので今回の問題は選択肢e「完壁を求めすぎず自信を失わせないよう配慮しましょう」が正解になります。

大人の発達障害について

最後に大人の発達障害について少し書かせていただきます。

近年、メディアなどを通じて成人になって発症するADHDが注目されています。

理由としては、学生時代は遅刻や提出期限、ミスに対して「学生だから」という理由で寛容に見逃されていたのが、社会人になるとそれらに対して厳しい目で見られるようになることで、症状が顕在化するといったことが挙げられています。

自分は学生なので、まだ比較的ゆるい環境に身を置いていますが、社会人になったら見積書などで数字を一桁間違えると、ほんとに命取りですもんね。

昔ではこういったADHDと考えられる症状も、「やる気が無い」といった本人の努力の問題として片付けられていたので、しっかり病気として認知されるようになってきたのは非常に望ましい状況だと思います。

ただ、ここ数年は発達障害バブル的な感じで発達障害でない人も過剰に発達障害と診断されているような印象も受けました。

ADHDの自己セルフチェックを見たことがありますか?

ADHD自己セルフチェックの例

・物事を行うにあたって、難所は乗り越えたのに、詰めが甘くて仕上げるのが困難だったことが時々ある。

・計画性を要する作業を行う際に、作業を順序だてるのが困難だったことが時々ある。

・約束や、しなければならない用事を忘れたことが時々ある。

・じっくりと考える必要のある課題に取り掛かるのを避けたり、遅らせたりすることが、頻繁にある。

・長時間座っていなければならない時に、手足をそわそわと動かしたり、もぞもぞしたりすることが頻繁にある。

・まるで何かに駆り立てられるかのように過度に活動的になったり、何かせずにいられなくなることが頻繁にある。

精神科病院のチェックシートを引用)

上記のチックシートはあくまでも一例ですが、正直「自分自身に当てはまるな―」と思ってしまいます(笑)

私自身がADHDっぽいってだけなのかもしれませんが、「約束や、しなければならない用事を忘れたことが時々ある。」とか誰しも経験する症状では?と思ったりもします。

なので、近年の発達障害ブームのおかげで、本来ADHDでない患者さんも一定数過剰診断されているのではないかと懸念されているようです。

 

もちろん、それで患者さんが助かっているのであれば問題ないのですが、前述したようにメチルフェニデートコンサータ)という薬は中枢神経を刺激する薬であり、体に大きな影響を及ぼす薬であることは間違いありませんし、費用も結構高いです。

 

発達障害の認知度が高まったことは非常に望ましいので、今後は適切な診断と治療が運用されればより良いなと思う次第です!

 

とはいえ、ADHDの診断って、診察室で症状を確認することも難しいので、ある程度過剰診断になっても仕方ないのかなという気もした入りします。

 

このへんは、自分は将来医師になった際に色々悩むんでしょうねー(;・∀・)

 

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◆おまけ(選択肢の解説)

今回はADHDの問題でしたね。

「集団での移動中に興味があるものに気を取られて飛び出してしまうことが時々ある。」「順番待ちが苦手で、順番を守れずに同じクラスの子どもとけんかになることがある。」「また、先生の話をじっと聞いていることができず、勝手に部屋を出ていくこともある。」「怒られると感情を爆発させ、手を出してしまうこともある。」といった不注意・多動性・衝動性症状が見られますね。

 

「父親への説明として適切なのはどれか?」という問題でしたが、

a 「危険を防ぐため行動を制限しましょう」ADHDは基本的に根治は難しいので、行動を制限してしまったら日常生活に支障をきたしますね。もちろん不注意があるので、事故にあわないように配慮した行動を指導することは大切です。


b 「家庭でもっと厳しくしつけをしましょう」→よくあるひっかけですが、ADHDはしつけの問題ではありません!脳の障害ですので、むしろ親御さんのしつけの仕方が悪いわけではない!と伝えてあげることが大切です。


c 「まず症状を抑えるお薬を内服しましょう」→すでに解説したように、非常に作用が強い薬ですので、いきなり薬を投与するのはダメですね。

 

d 「特に問題はないので通院の必要はありません」→これは診療放棄ですね(笑)ご両親が悩まれているので、医師としては適切な対応をする必要があります。


e 「完壁を求めすぎず自信を失わせないよう配慮しましょう」これが正解でしたね!まずは心理社会的アプローチが重要です!

うつ病に電気ショックが有効!? 医師国家試験 113D2

昔行われていた治療法が、近年再び脚光を!

医師国家試験(2019年度)113D2 精神科

電気けいれん療法について正しいのはどれか。

a 65歳以上は適応にならない。
b 重症うつ病は適応疾患である。
c 副作用として筋強剛がみられる。
脳神経外科医の立ち会いが要件である。
e 患者やその保護者の同意なしに実施できる。

 今回は、電気けいれん療法についての問題です。

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タイトルでわかりやすいように”電気ショック”と書きましたが、「電気ショック」と言われると、ちょっと表現が刺激的な点と、救命救急の現場で用いられるAED自動体外式除細動器)などの心臓に電気ショックを加える治療法と間違われやすいためか、現在では電気けいれん療法と記載されるようです。

 

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AEDを使う人

電気けいれん療法とは!?

電気けいれん療法とは、頭のこめかみの部分に電極を当てて、脳内に電気を通電することで、精神症状を軽減させる治療法です。

 

強い自殺念慮のあるうつ病統合失調症などに用いられます。

 

電気けいれん療法のガイドラインにも「精神科によって起こる症状を迅速に改善し、病状が遷延することによるADL、QOL(生活の質)の低下など2次的な障害を予防できる。」と書いてあります。

 

さらに「薬物療法と比較して効果は同等かそれ以上であり、迅速な改善が期待できる」とも書かれており、「薬より効く可能性があるの!?」とやや驚きますよね。

 

百聞は一見に如かずということで、こちらのメーカーさんの作成したyoutube動画を見て頂けると、どんな感じで治療するのかがよくわかりますね。


MagVenture TMS療法によるうつ症状の治療。高い患者処理性能。

実は1950年頃までは盛んに行われていた治療法

この電気けいれん療法は、1930年頃にヨーロッパで開始され、その後日本に輸入されて1950年頃までは盛んに行われていたようです。

昔は精神病の薬が十分になかったことに加え、治療効果が高かったため頻用されていたようです。

しかし、治療によって記憶障害や、電気刺激による発作で暴れるため骨折などの副作用が生じたこと。(ひどい場合には、けいれん時に胃の中身が逆流して窒息死してしまうなんていう悲惨な例もあったようです。)

また、「電気ショック」という響きが残酷な印象を世間に与えた点や、実際に懲罰目的で一部の病院で用いられていたなど問題点があったため、向精神病薬の到来により廃れていったようです。

 現在行われているのは「修正型」電気けいれん療法

一度は廃れてしまった電気けいれん療法ですが、近年では修正型電気けいれん療法(mECT)」として再び注目を浴びるようになりました。

 

電気けいれん療法は元々治療効果自体は認められていたのですが、けいれんや骨折などの副作用が問題でした。

そこで現在では、手術室で麻酔科医の協力を得て全身麻酔科&筋弛緩薬使用のもとでけいれんなどの副作用が起きにくいように配慮して実施されるようになりました。

個人的には「なんで”修正”ってついてるんやろ?」と前から思っていたのですが、歴史的背景があったんですね!

一番の適応は重度のうつ病

最大の適応は重度のうつ病です。すでに記載しましたが、自殺の危険性が高かったり、薬が全く効かない人に対しても、劇的に効くすることがあるようです。

個人的には実際に見たことないのですが、昨年(2019年7月頃)にやっていたNHKクローズアップ現代でちょうどこの電気けいれん療法の特集をやっていて、かなり効果があるんだなーと感じたのを記憶しています。

www.nhk.or.jp

 

他にも、将来の就職を見据えて色んな大学病院の精神科医局のホームページを見ているのですが、とある大学の精神科医精神科医を志した理由に「電気けいれん療法が劇的に効くのを見て感動した」と書かれていたので、めっちゃ効くのかもしれないですねー(残念ながら実習で見れなかったです(´;ω;`))

 

治療回数は、1回10分~40分で、これを週5回(平日毎日)×6週間=合計30回行うのが標準なようです。放射線治療とかのスケジュールと似ていますね。

 

ただ、万能な治療かと言われると、そうでもないようです。クローズアップ現代の特集でも言及されていましたが、一次的に改善しても数ヶ月するとうつ病が再発するという例もあり継続的な研究が必要なようです。

また日本では、麻酔科医が少ないので、行える施設も限られているようです。

いずれにせよ、「電気刺激がうつ病に効果的」という事実は、うつ病は単なるメンタルの問題ではなく、「脳の構造的問題」に結びつくということなので興味深いですね!

それに、患者さんの選択肢が増えることは良いことですよね!

問題の解説

電気けいれん療法について正しいものを選べということですが、

a 65歳以上は適応にならない。

→年齢は関係ないです。

b 重症うつ病は適応疾患である。

ガイドラインの1次適応としては、大うつ病統合失調症双極性障害とあるので大正解です!、今後は統合失調症双極性障害に絡めた問題が出るのでしょうか?

c 副作用として筋強剛がみられる。

→副作用は通電後すぐは、痙攣重積やせん妄など。覚醒後に頭痛や筋肉痛、吐き気、見当識障害などがあるようですが、筋強剛はないようです。筋弛緩薬と投与するので、それを意識したひっかけでしょうか?

脳神経外科医の立ち会いが要件である。

→これも麻酔科医でしたね!こういったひっかけは注意したいですね。今後は、「手術室で行う」とかも出題ポイントになりそうですね。


e 患者やその保護者の同意なしに実施できる。

→電気を通電するのに同意書なしでやるのは倫理的にまずいですよね。

 

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適量な飲酒は健康に良いは嘘だった? 医師国家試験 113B31

最新の論文では少しのお酒でも体に悪影響だそうです(´;ω;`)

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アルコールは我慢しないとだめなのでしょうか!?

医師国家試験(2019年度)精神科 113B31

48歳の女性。転倒による大腿骨骨折のため、昨日入院した。昨晩は夜間に全く眠らない状態が続き、今朝から手指と上肢に粗大な振戦が出現した。既往歴に特記すべきことはない。喫煙歴はない。20歳から飲酒を開始し、32歳から夫の母親を自宅で介護するようになり、飲酒する頻度が増えた。38歳から連日昼間も飲酒するようになり、45歳からは1日に焼酎500mL以上を飲酒していた。体温36.7℃。脈拍68/分、整。血圧140/88mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。血液所見:赤血球392万、Hb 13.0g/dL、Ht 42%、白血球7,500、血小板17万。血液生化学所見:総蛋白7.8g/dL、アルブミン3.8g/dL、総ビリルビン1.0mg/dL、AST 140U/L、ALT 80U/L、γ-GTP 210U/L(基準8~50)、総コレステロール295mg/dL、トリグリセリド240mg/dL。頭部CTで異常を認めない。

数日以内に出現する可能性の高い症状の予防に適切な薬剤はどれか。

a 選択的セロトニン再取込み阻害薬
ベンゾジアゼピン系薬
c 精神刺激薬
抗精神病薬
e 抗酒薬

 今回は、臨床問題と言われるタイプの問題ですね。

医師国家試験には一般問題と臨床問題の2種類があります。

 

見分けるのは簡単で臨床問題は今回のように問題文が非常に長いです。

患者さんの背景や血液検査など細かい情報が書かれており、そこから診断名や適切な検査や治療法を考えていくというより実践的な問題です。そのため、医者として必要な思考法がしっかり身についているかが試される問題です。

 

長い問題では複数の連問形式になっていて、画像検査などを入れると数ページに及ぶこともあり、なかなか心が折れますね(笑)

 

一方で一般問題とは、以下のようにセンター試験など一般的な試験で見られる選択形式の問題ですね。こちらは、単純な知識が問われていますね。

医師国家試験114D7 2020年度

アルコール依存症の治療について適切なのはどれか。

a 入院治療が第一選択である。
b 断酒会は匿名参加が原則である。
離脱症状ベンゾジアゼピン系薬を投与する。
d 脳症の予防としてビタミンDは有効である。
e 患者に知らせずに抗酒薬を食事に混ぜて投与する。

 ちなみにこちらの114D7の問題については、以前別記事で解説させていただいたのですが、正解はcのベンゾジアゼピンという睡眠薬を投与するというものでしたね!

 

アルコールを飲んでリラックスできるのは、チョコレートで有名なGABAという物質が関係しているのでした。

 

アルコール依存の人が入院などでアルコールを飲めなくなるとふるえや幻視といった「離脱症状が現れます。これは、アルコールによって活性化していたGABAスイッチが、禁酒によって急にオフになるからでしたね。

 

そこで、GABAスイッチに作用する睡眠薬ベンゾジアゼピン)を飲むことで、離脱症状を抑えることができるのでした。

詳細はこちらを参照してください。「アルコール依存症の治療に睡眠薬が有効!?

 

医師国家試験では似た問題が数年以内にリバイズされることがある!

医学生以外にとっては完全に余談になるのですが、医師国家試験では過去に出題された問題が数年後に別の形式で出題されるということが多々あります。

 

2020年度の試験で第114回目だったので、いくら医学の進歩が著しいと言っても重要な内容は限られているので、似たような問題を出さなければいけないという事情もあるようです。

 

今回面白いのは、2020年度の試験(第114回D7)で一般問題形式で「アルコール離脱にベンゾジアゼピン睡眠薬が効果的」という話が出題されたのですが、前年の2019年度に全く同じ内容が臨床問題として出題されているんですよね。

 

ですので、医師国家試験では同じ知識が「一般問題」→「臨床問題」→「一般問題」と交互に出題されるというのが定説になっています。

 

厚生労働省のお墨付きはアルコールは一日20gまで!

さて、今回のアルコール離脱に関する臨床問題を見ていきたいのですが、注目すべき箇所を抜き出すと

20歳から飲酒を開始し、32歳から夫の母親を自宅で介護するようになり、飲酒する頻度が増えた。38歳から連日昼間も飲酒するようになり、45歳からは1日に焼酎500mL以上を飲酒していた。

の部分でアルコール摂取量が多いと分かりますね。

 

厚生労働省が2000年に発表した推奨量として、アルコールは一日約20gまでとされています。これを普段飲むお酒に置き換えると焼酎なら0.6合(110ml)、ビール中瓶1本(500ml)、缶チューハイ1.5缶(500ml)、日本酒1合(180ml)、ワイン1/4本(180ml)とされています。

 

今回の患者さんは、45歳から現在まで約3年間も毎日500ml以上飲んでいるので、推奨量の4倍以上飲んでいるわけですよね。

 

ただ、「32歳から15年近く夫の母親を介護していた」というなかなかヘビーな記載もあり、昼間からお酒を飲まないとやっていけないくらいストレスフルな生活を過ごしていたのかなとも推察できますね。(国家試験本番は余裕がないでしょうが、暇な時にじっくり国家試験を解いていると、なかなか細かい設定がなされているなと感動しますね(笑))

 

ということで、アルコール依存症は間違いないでしょう。

 

さらに

転倒による大腿骨骨折のため、昨日入院した。昨晩は夜間に全く眠らない状態が続き、今朝から手指と上肢に粗大な振戦が出現した。

この部分から、介護疲れのためか不幸にも骨折(しかも大腿骨!!!)してしまい、入院してしまい、アルコールを飲めなくなってしまったんでしょうね。それで今朝から離脱症状である手足のふるえが出てきたという流れのようです。

 

ですので、「数日以内に出現する可能性の高い症状の予防に適切な薬剤はどれか。」という問いに対しては、GABA受容体に作用する睡眠薬である「b ベンゾジアゼピン系薬」が正解となります。

 

ちなみに数日以内に出現する可能性が高いとあるのは、今朝の時点では離脱症状が軽度だったが、今後数日より大きな発作が現れるというのを示唆しているのでしょう。

 

ということで、問題自体はそこまで難しくないのですが、なかなか社会的メッセージの強い問題でしたね!

 

個人的に直近の第114回医師国家試験(2020年度)で印象的だったのはレッドブル®などエナジードリンクを飲みすぎた患者さんがカフェイン中毒で搬送されるという問題が出題されたことですね。精神科領域なら、今後はゲーム中毒とかネット依存症の問題が出る時代が来るかもしれないですね。

 

少しのアルコールでも体に悪影響!?

先程も記載したように厚生労働省の健康日本21(第1次)では一日20gまでのアルコールならオッケーとお墨付きがあったわけです。

 

これは、1996年の海外の論文にて男性の死亡率がアルコール摂取量20g/日あたりが最も低いというデータが発表されたことを根拠といていました。

 

また適度な飲酒は血管に良い効果をもたらすので、心筋梗塞など心臓疾患の発症をおさえるなんて研究もあったりしたので、堂々とアルコールを飲む理由となっていたわけです。

 

しかし、2018年のLancetという権威ある雑誌にて「アルコールを摂取しないことが、病気の発症リスクを最小にできる」と発表されました。

もちろんアルコールは血管への良い効果もあるのですが、アルコールのせいで肝臓障害になったり、癌が発生しやすくなったりするトータルのリスクを考慮すると飲まない方が良いとうことのようです。

 

ということで、お酒好きの人にとっては悲しい結論になりましたね。今後は、厚労省からも公式に「アルコールは飲まない方が良い」という見解が出される時代になるのでしょうか。。。。(´;ω;`)

 

身体への悪影響という点ではアルコールは飲まない方が良いのは間違いないですが、適度なアルコールで気の知れた友人と食事をすることは「心の健康を保つ」という点では必要かなと思ったりもします!(体も心も両方大切ですからね!と自分に言い訳w)

 

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◆おまけ(残りの選択肢について)

a 選択的セロトニン再取込み阻害薬→SSRIと言われるうつ病に用いられる薬ですね!

ベンゾジアゼピン系薬→正解です!

c 精神刺激薬→精神刺激薬はADHDナルコレプシーに用いられるメチルフェニデートという薬なので誤りです!

ナルコレプシーについて知りたい方はこちらを参照ください!

抗精神病薬→これは統合失調症に有効な薬ですね!

統合失調症と薬については、こちらを参照ください!


e 抗酒薬→これは、アルコールの断酒目的に使われる治療薬なので、今回のような離脱症状の予防には使えませんね。

 

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